くまモンが好きだと言うと(言わなくても持ち物を見ればそれとわかるのだが)、「どこがいいの? ほかのキャラと何が違うの?」と聞かれることが多い。
ああ見えて俊敏だし、しゃべらないけどコミュニケーション能力が抜群だし、見た目からして癒やされる、かわいいけどやんちゃなところもあるし、何に対しても全力でがんばるし、いつだって自分の役割をわかっていて、期待以上のパフォーマンスをする。そうやって熱意を込めて説明するのだが、やはり、実際にくまモン本人と会ったことのない人に彼の魅力を説明するのはむずかしい。そして、どんなに言葉を尽くしても、くまモンの魅力を伝えられないような気がする。
“黒い子”にハートを撃ち抜かれ、早10年
くまモンに偶然出会ったのは、ある取材で訪れていた熊本市内だ。その数か月前、くまモンが2011年の「ゆるキャラ(R)グランプリ」で優勝したニュースは知っていたが、キャラクターに一度も心引かれたことのない私は、空港にたくさんあったくまモンの看板やポスターにも「へえ、これがくまモンか」と思うだけだった。
ところが、取材を終えた翌日午後、熊本ラーメンを堪能して店の外へ出ると、なにやらパレードが行われており、その列の合間を“黒い子”が俊足を飛ばして駆け回っていた。平日の昼間、それほど人もいなかったので、ぼうっと突っ立って見ていると、その“黒い子”は走ってきてピタリと私の前で止まり、手を出した。丸い顔に丸い目、真っ赤なほっぺがほほえましく、「この子がくまモンね」と思いながら手を出すと、彼は両手でぎゅっと私の手を握った。その瞬間、電気が走った。一目惚れだった。
それからもうじき10年、飽きもせず追いかけているのが、われながら不思議だ。それだけ彼の魅力は多岐にわたり、常に進化しているのだと思う。
例えば、こんなことがあった。東京で「牛深ハイヤ(うしぶかはいや)」という、伝統的な踊りを見せるイベントが開かれたときのことだ。熊本県天草市の牛深ハイヤは、江戸時代後期、牛深港が交通の要衝として栄えていたころ、船乗りたちの間で流行した歌と踊りだ。威勢のいい曲もあれば、船乗りの身を案じる切ない女踊りもある。
くまモンはステージの後方で「東京牛深ハイヤの会」の幟(のぼり)を持って調子をとっている。そのうち踊りたくなってきたのだろう。くまモンはハイヤのうまい踊り手だ。ときには何かが乗り移ったかのように踊りまくる。だからこそ、身体がうずうずしているのが手に取るようにわかった。だが、幟をどうしたらいいかわからず、キョロキョロしている。
ステージでは曲が変わりながら踊りが続いており、幟を受け取ってくれる人がいない。そうっと後方に置くこともできるのに、彼はそうしなかった。幟を持ったまま、身体全体でリズムに乗った。気づいたスタッフが幟を受け取ってくれると、ステージの真ん中に飛び出してきて弾けたように踊り始めた。ハイヤの会にとって大事な幟を地べたに置くことは、どうしてもできなかったに違いない。その思慮の深さ、律義さに心を動かされた。
彼の律義さは、いつでもどこでも深々としたお辞儀をすることにも表れている。あんなお辞儀をされたら、誰でも一発で虜(とりこ)になる。
みんなを虜にする「迫真の演技」
くまモンは「くまモン隊」の隊長でもある。アテンドのおにいさんやおねえさんと一緒に行動する。拠点になっている「くまモンスクエア」では、毎日のようにステージが繰り広げられ、アテンドたちとコントのような寸劇を繰り広げることも。
お花見が話題になったとき、くまモンはいきなり寸劇を始めた。意気揚々(ようよう)とお花見会場に来たが、急にもよおしてしまう。慌ててトイレに駆け込むが、4つある個室は全部、埋まっている。身体をよじって我慢するくまモン。「大丈夫?」とアテンドのおねえさんが心配げだ。だんだん、くまモンが切羽詰まってきて、ドンドンドンドン、すべてのドアをノックする。ようやく1つ空き飛び込むと、ホッと安心したような表情で個室を出てきた。
「じゃあ、お花見に行こう」
おねえさんはそう言うが、くまモンは4つのうち、1つの個室がまだ空いていないことが気になっている。こんなに長く入っているのはなぜか、中で何をしているのか、というのだ。
お花見の話は進んでいくが、時折トイレに戻り、まだ閉まったままの個室をノックする。「執着するねえ」とおねえさんに笑われても、気になってしかたがない様子。このドラマ(!)、くまモンの迫真の演技によって、会場は笑いの渦に包まれた。観客まで「あの個室の中の人、大丈夫だろうか」と心配になるほど。くまモンが仕掛けた「ドラマの世界」に、いつしかこちらもはまっていくのだ。
くまモンが全力で走り続けるワケ
彼は常にチャレンジャーでもある。バンジージャンプは2回もやったし、さまざまなスポーツへの挑戦も見せてきた。2019年の誕生祭では、和太鼓に挑戦した。手が短いため(失礼!)、最初は撥(ばち)をうまく太鼓に振りおろすことができなかったのに、訓練を重ねて、当日は見事な演奏を披露した。ときに飛び上がるようにしながら力を込めて叩き続ける様子に感動して涙を流す人が続出したのは言うまでもない。
「できないことはなかモン」という、くまモンの姿勢に勇気づけられる人は多い。
また、くまモンは表情豊かだ。そう言うと、能面と同じで、角度と見る側の心の投影だと言われるのだが、どう考えても表情は変化に富む。誰もが「いたずらをする前は、やってやるぞ、という顔をするよね」と言うのだから。そして失敗したときは「しまった」という顔をする。子どもが泣いていると心配そうな顔で覗(のぞ)き込んだり(そしてもっと泣かれることも……)、がんばれ、というときは力強い表情になったり。くまモンは「くまモン」という生き物であり、唯一無二の存在。そしてファンになると、その表情が読めるようになる……のではないかと考えている。
コロナ禍でくまモンにも少し「おうち時間」が増えたと聞くが、この11年間、くまモンは休む間もなく、ひたすら全力で走り続けてきた。数年前、くまモンのドキュメントを書くために話を聞いたとき、「あまりに忙しくて、お仕事が嫌になることはないの?」と尋ねてみた。そのときのくまモンの表情は、「え? 何を言ってるのかわからない」という感じ。そして「嫌になるなんて、ありえな~い。ボクはいつだって、みなさんの笑顔が見たいんだモン」と力強く言った。そう聞こえたような気がする……わけではない。本当に彼は表情豊かにそう伝えてくれたのだ。
(取材・文/亀山早苗)
「くまモンファン感謝祭2022 in TOKYO」開催するモン!
日時:2022年1月15日(土)・16日(日)
場所:新宿区新宿文化センター
ステージ観覧は事前応募制で、最終回のステージはYouTubeライブでも配信予定。
この2日間のための特別なコンテンツも準備中♪
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