俺を上手に扱ってくれてるのかもしれないよね

 それでも何年か前、もうさすがに口もききたくなくなることがあった。ママが、いつも塩を入れている調味料入れに間違って砂糖を入れててさ。俺がステーキを焼いたとき、砂糖味になっちゃったんだよ。いま考えると大したことじゃないんだけど(笑)。

 でも、これまでの積み重ねがあったし、「この人ずっとこの調子だけど、70歳になってもこのままだとしたら俺、耐えられるのかな、許せるのかな」って真剣に考えちゃったのよ。

 もう、あきれて話す気もなくなったから、しばらく口をきかなかった。俺、腹立つとしゃべらなくなるからケンカにならないんだよね。もともと仕事以外では誰とも話さなくても平気な人間だから。

 そうしたらママもママで、「ねぇ、ねぇパーパ!」って毎日がんばって話しかけてくる(笑)。あの人も諦めない人だからね。最後のほうはもう、ふざけ半分で“口きかない遊び”みたいになってた (笑)。

 そんなことがありつつ、もう結婚してから27年。お互い50代になって、最近は「ママは生きててさえくれりゃいいよ」っていう境地だね(笑)。そう言うと本人は「やったー」なんて喜んでるけど。でも本当に、この年になると、家事ができる、できないなんてささいなことだと思う。毎日、話し相手になってくれるだけで、ありがたいよね。

撮影/佐藤靖彦

 そういう俺だってさ、ママからしてみれば不満は絶対あると思うよ。俺は趣味もやりたいこともたくさんあるから、ちょっと時間ができればすぐ遊びに行くしね(笑)。

「あした休みなの?」って聞かれて、「休みだけど忙しいんだよね」って答えたら、「ふーん」で終わりだけど、それは「あ、出かけるんだな」って察してくれてんだよね。

 俺の趣味のひとつがアウトドアで、知り合いを遊びに連れて行って楽しませたりすることが好きなこともわかってくれてるから、何も言わない。

「浮気しないで」なんて言われるより、趣味を制限されるほうが俺はずっときついね。ママはそういうことはまったく文句言わないから。「はいはい、好きにして」って感じで、俺を上手に扱ってくれてるのかもしれないよね。

 結局、夫婦ってお互いさま。100%の人なんていないもん。俺はね、家族みんな合わせて100%になればいいと思ってるの。

 息子たちふたりも、もう成人して意外と頼りになってきたから、それぞれ20%ずつ。俺は家族の責任者だから30%。残りはママ。そうやって足りないところを補い合いながら、合わせて100%になれば、家族は成立すると思う。

 わが家のルールをひとつあげるとしたら、子どもよりもママを大切にするということかな。

 息子たちが子どものころから「何か起きたら、パパはお前たちよりもまずママを助けるからな」と、あえて言ってきた。男は女を守らなきゃいけないんだっていうことを、それで感じてほしかったんだよね。息子たちに彼女や奥さんができたとき、守れる男になってほしいという思いもあるから。