思わず誰かにLINEしたくなる、おもしろ雑学を2つ紹介。今回は、銭湯の壁に富士山が描かれる理由と、なぜ「さいとう」という名字に漢字がいくつもあるのかについて。
銭湯の壁に富士山を描く理由
【Q】どうして銭湯の壁には富士山がよく描かれているの?
【A】銭湯に初めて描かれた絵が富士山だったから。
銭湯というと、壁に富士山が描かれている光景を想像する人も多いだろう。現在放送中の朝ドラ『おかえりモネ』の主人公が下宿している銭湯のロケ地で、レトロ銭湯ファンに有名な「明神湯」にも富士山の絵が描かれている。
富士山の絵の発祥は千代田区猿楽町にあった銭湯「キカイ湯」らしい。詳しい話を日本銭湯文化協会理事の町田忍さんに聞いた。
「銭湯の絵は、大正元年にキカイ湯の経営者が子どもを喜ばせようとして、殺風景だった板の壁に絵を描いてもらったことが始まりです。頼まれた画家が自分の生まれ故郷の富士山を描き、それが東京中の評判となって、ほかの銭湯でも富士山の絵が描かれるようになりました」
多くの人が富士山の絵を見るため、広告業者が絵の下に広告を出すようになり、銭湯はその広告費で年に1度、富士山を描き替えたという。
「たいていは富士山だけでなく、松と水源も描かれます。松が描かれるのは縁起がよく、富士山と定番の組み合わせでもあるためです。川や湖、海が描かれるのは、壁の絵と銭湯の湯船がまるでつながっているかのように見せるため。霊山である富士山に清められた水に入っているので、罪や穢(けが)れを落とす禊(みそぎ)をしていることになるのです」(町田さん)
よく描かれているのは、雪化粧をした富士山と春の新緑のような松の木だ。実は、このような富士山の風景は現実には存在しない。異なる季節の美しい部分を合わせた、想像上の景色なのだ。
「斉」「斎」「齊」「齋」の関係
【Q】「さいとう」という名字に漢字がいくつもあるのはなぜ?
【A】口頭で言われた役人が書類に間違って書いたからです。
「さいとう」という名字は、「斎藤」や「斉藤」など、漢字にいくつも種類がありややこしいが、実はすべての「さいとう」はもともと「齋藤」という漢字だったという。名字研究家の高信幸男さんに話を聞いた。
「『さいとう』という名字は、齋宮寮(さいぐうりょう)という役所の長官を藤原氏が務めていたことから、齋宮寮の藤原氏ということで『齋藤』を名乗ったのが始まりです。
明治時代になると、国民全員に名字を名乗ることが義務付けられたため、多くの人が役所に行って口頭で名字を申請しました。このとき、『さいとうでお願いします』と言われた役人のなかには読み書きが苦手な人もおり、また『齋』の字は複雑なので、戸籍に書き間違えて記入されて、さまざまな漢字の『さいとう』が生まれたのです」
その結果、「さいとう」の漢字は31種類も生まれることになった。よく使われる「斉」や「齊」も「齋」の書き間違いだという。
ちなみに、「斎」は書き間違いではなく、「齋」の字の新字体だ。
また、「わたなべ」という名字も「渡邊」や「渡邉」など、「さいとう」と同じように漢字の種類が多い。
「『わたなべ』という名字の場合は、本家と分家を識別しやすくするために『なべ』の漢字を少しずつ変えていったという説が有力です。また、『齋』と同じように『邊』や『邉』も漢字が複雑なため、書き間違いがよく起こり、漢字の種類が多くなったのでしょう」(高信さん)