実は、息子が生まれていたら「野茂(のも)」という名前にしたいなと思っていた。ええ、あの野茂英雄さんの名字です。名字だけど「野に茂る」という意味にもなるのでありかなと。当時、野茂投手は32シーズンぶり2人目の日本人メジャーリーガーとして海を渡り、新人賞を獲得、その後も華々しい活躍を見せていた。そんな野茂投手みたいに、わが道を行けるたくましい人間になってほしいという思いがあったからだが、娘が生まれたので実現しなかった。

 野茂投手は独特のトルネード投法で注目されたが、もっとすごいのは投げる球種のほとんどがストレートとフォークの2つだけだったことだ。それでもMLB時代にノーヒットノーランを2回達成、最多奪三振を2回獲得している。

 その野茂さんが語ったのが〈ど真ん中に投げればいいんですよ〉

 たぶん『Number』(文藝春秋)の誌上で誰かと対談したときだったと思うが、ずいぶん前の記憶なので確かではない。野茂さんは、投手がナーバスになって際どいコースを狙いすぎた結果、カウントを悪くして打たれる場面について、ど真ん中に投げても意外と打たれないのだから、自信を持って勝負をしたほうがいいと指摘。

 たしかにMLBの中継を見ていると、ど真ん中のボールを見送ったり、空振りしたり、打ち損じたりという場面が少なくない。そんなときに野茂さんの〈ど真ん中に投げればいいんですよ〉を思い出す。

 人は余計なことを考えすぎる。考えすぎて、言うべき言葉を飲み込む場面がある。だから、野茂さんのマインドは仕事や日常生活にも応用できると思う。

 ただ、かつて僕のこの話を聞いて、頭の上がらない奥さんとの会話で早速、ど真ん中に投げてみた友人がいる。結果は惨敗である。ど真ん中に投げる前提として「球威」が必要だということを忘れてはいけない。(DD)