39歳で『女が家を買うとき』(文藝春秋)でデビューしてから70代の現在まで、30年以上にわたって「シングル女性の生き方」をテーマに執筆や講演活動を行っているノンフィクション作家の松原惇子さん。

 ひとりで生きることの迷いや葛藤を吐露しながらも、しがらみがない「おひとりさま」だからこその楽しさや素晴らしさも伝えてくれる、人生の師匠のような方です。担当編集として松原さんと4年のおつきあいになりますが、周囲をパッと明るくするオーラのある方で、お会いするたびに元気をいただいています。

 先日、松原さんが43歳のときに書いた『いい女は頑張らない』(PHP文庫)をお借りして読んだところ、《人づきあいなんてヘタでもいい》という一文が。ちょうど人間関係の難しさに悩んでいた私の目は釘付けになりました。

 松原さんは竹を割ったような性格で嘘がつけず、《好きでもない人とつきあうことが極端に苦手で、それは自分でもうんざりするほどである》と顔や態度に気持ちが表れてしまう自分に悩んでいたそうです。

 しかし、誰に対しても感じがよく、褒め上手で、初めて会った人はたちまちその人のファンになってしまうほど人づきあいの上手な知人女性Aさんが、夫には悪魔のように冷徹な視線を向けている瞬間を見てしまい、気づいたのだと言います。

《人づきあいがうまいということは、自分を殺して相手に合わせるのが上手ということでもある。一度や二度の付き合いなら、表面的な人あたりの良さで、うまくやれるが、良いつきあいになると、本心でやっていないものは、バケの皮が剥がれてしまう》

 その後、他の友人たちもAさんの本心に気づいたのか、みんなAさんから去ってしまったそうです。この経験から「人づきあいはヘタで構わない」という結論に達したといいます。

《例えば、人づきあいがヘタで上司に気に入られないにしても、他の人が、そういうあなたを認めてくれるということもある。すなわち、自分に素直にふるまっている方が、トータルで見た場合、得だと思うのだ》

 みんなから好かれるより、自分に正直に。今も全くブレない松原さんのポリシーに、また勇気をもらえました。(知)