『つむじ風食堂の夜』や『それからはスープのことばかり考えて暮らした』などの小説で知られている、作家の吉田篤弘さん。優しく穏やかな世界観や、人や世界とつながる喜びを丁寧に、わかりやすい言葉でつむぐ作風が大好きです。

 いつも小説のタイトルが秀逸だと思うのですが、中でも『レインコートを着た犬』は私のココロのツボにすぽっと入りました。レインコートを着た犬。想像するだけでかわいい。さらに文庫本の帯文の「犬だって笑いたい」がダメ押しでした。人間に笑いかけようとしてもできない、もどかしがっているレインコートを着た犬。かわいすぎる。

 その名の通り、小説の主人公は犬。小さな町にある映画館で働く青年に飼われた「ジャンゴ」という犬が、商店街の人々にかわいがられながら、人間と話せない歯がゆさを抱えているのです。ジャンゴの目線で、人と人、人と犬とのつながりが描かれます。

残念ながら帯文なしver.ですが、こちらが表紙です。イラストとデザインもかわいい。※記事中の写真をクリックするとアマゾンの商品紹介ページにジャンプします

《なぜ、神様は犬に笑顔を授けてくださらなかったのか。神様というのは、どうもやはり人間をいの一番に贔屓(ひいき)にしている》

 これは小説冒頭の、ジャンゴの心の声です。確かに笑顔は人間の特権でもあります。

 私は動物が好きなのですが、彼らの考えていることがわかったらどれだけいいだろう、といつも思います。近所で見かけるあの犬が、この犬が、この小説のように「笑いたい」「しゃべりたい」と思っているとしたら。そんな人間には覗けない世界が広がっていると思うと、愛しさが増すとともに、想像力を刺激されるのです。(知)