『セトウツミ』(秋田書店、全8巻)は此元和津也(このもとかづや)の傑作漫画。それを原作に映画(2016年)とテレ東系の深夜ドラマ(2017年)が立て続けに作られた。
「喋るだけの青春」「暇つぶしの青春」。それが、この物語のキャッチコピー。
主人公は、関西の高校生2人。クールなインテリメガネの内海想(うつみそう)と元サッカー部のお調子者、瀬戸小吉(せとしょうきち)とが放課後、関西弁でただしゃべるだけという物語だ。映画では菅田将暉(セト)と池松壮亮(ウツミ)、ドラマでは葉山奨之(セト)と高杉真宙(ウツミ)のコンビが演じた。個人的には葉山・高杉のテレ東版に愛着がわいてDVDを買ってしまった。
部活を辞めて放課後にすることがなくなった瀬戸と、塾が始まるまでの時間を河川敷で一人過ごす内海。正反対のキャラクターを持つ2人は、河川敷で時間を潰すという1点で利害関係が一致する。三角関係になるヒロインや癖のある同級生らも登場、ときにボケとツッコミが入れ替わり、ゆるくて絶妙な距離感の会話を重ねていく。そして、2人はいつの間にか親友と呼べるような関係へ。物語もこのまま、ゆるく終わるのかと思ったら、、、(略)。
瀬戸と内海の関係が見ていて心地いいのは、群れていないからだ。同調行動で盛り上がるわちゃわちゃ感とは無縁なのだ。一見、正反対のキャラクターだが、群れずに自分の世界(時間)を持っているという点で、ふたりはそっくりだと思う。
『セトウツミ』からは、どこを切り取ってもセンス抜群のコトバをピックアップできるのだが今回は、おもろすぎるセリフの応酬の間に、時々つぶやかれる直球のコトバを。
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高校の入学式の日に素行不良の先輩に「あいさつがない」とからまれ、顔に×マークを落書きされたことを何度も愚痴る瀬戸に対して内海は、1回しかなかったムカつきを愚痴を吐くことで何度も追体験してる、と指摘。愚痴を吐いてスッキリするどころかムカつきは蓄積され、瀬戸の心を蝕んでいるのだと。
「ほな、どうしたらええねん」と瀬戸に聞かれた内海の答えは、
「許すことやな」
続けて、「普段の気持ちの積み重ねが過去を作るのであって、普段笑ってない場合……過去も面白くなかったということになるんちゃうか?」と畳みかける。
その言葉が胸に収まったのか、瀬戸は黙って内海を横目で見たあと話題を変えた。
(秋田書店『セトウツミ』第1巻1話ムカーとスッキリ)
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許せないという気持ちを、自分自身で許そうと思えるように切り替えるのは簡単ではないと思う。自分が自分に投げかける言葉の力だけでは、どうにもならないときもある。
でも、“友”と呼べる人からの思いやりを感じる言葉が、素直に胸に収まった瞬間、自分を変えてくれることがある。そういう“他人の言葉”には感謝しかない。(DD)