再び『セトウツミ』(此元和津也/秋田書店、全8巻)から。
瀬戸の誕生日。内海は河川敷の顔見知りである大道芸人のバルーンさんに協力してもらい、ささやかなサプライズプレゼントを用意して驚かせようとしたが、瀬戸は反応しない。内海が「どないしてん 瀬戸」と声をかけると、
「実は今日な うちの猫 死んでん」
猫の名前はミーニャン。病気だったので覚悟はしていたという。でも、
「よりよって 誕生日に 猫死ぬって…」
一個だけ後悔してることがあると語る瀬戸。親がミーニャンの世話のことで離婚問題に発展、自分も精神的にまいってて思わず、
「お前のせいやぞ! はよ死んだらええねん お前なんかもう!」
とミーニャンの背中に向かって毒ついたのだそう。
「そしたらミーニャンな 後ろ向いたまま 耳だけこっち向けて それを聞いてたわ」
内海は精いっぱいの励ましの言葉をかけるが、瀬戸は内海に八つ当たりするかのようにわがままを言い始める。横で聞いているバルーンさんも瀬戸に加勢するので、勢いに押されて要求を受け入れる内海。そしてトドメの願いが、
「俺のええとこ 10個言うて」
内海は「ペットが死んだら 願いってこんなに叶うん?」と嘆くのだった──。
(『セトウツミ』2巻・第13話「出会いと別れ」)
この「俺のええとこ 10個言うて」を読んで、若い頃に似たような会話をしたことがあるのを思い出した。
何回か会ったことがある年下の女の子に「自分が嫌い」と話すと、「産んでくれたお母さんが泣いちゃうよ」と言われた。母は数年前に死んでいたが、病弱だった母は医師に「命の保証はできない」と言われながらも僕を産んだので、「お母さんが泣いちゃうよ」と言われ、その母に申し訳ないと思って自分が泣いた。キャバクラで。
若いのに不思議な包容力があるその子は、続けて「自分のいいところを5個言ってみて」と言った。「自分じゃわからない」と答えると「じゃあ、私が言うね」と言い、僕をじっと見ながら5つあげてくれた。どれも嬉しくて誇らしい言葉だった。でも本当は、自分で言えなきゃいけない言葉だと気づいた。その時、自分で自分を肯定することの大事さを教えられた。キャバクラで。(DD)