山田太一さん脚本のテレビドラマ『ふぞろいの林檎たち』は、1983年にスタート。中井貴一、時任三郎、柳沢慎吾、手塚理美らが織りなす青春群像劇でした。

 山田さんがドラマの打ち合わせで居酒屋にいた際に、騒いでいた大学生が急に静かになり帰っていたのを見て、「どうしたのかね?」とテレビ局のスタッフに尋ねると、「先にいた学生たちよりも偏差値の高い大学の学生が大挙してお店に来たので、いづらくなったのでしょう」と推測したそうです。

 それまで山田さんは、大卒と高卒とのあいだのコンプレックスをこのドラマの背景に描こうと考えていたそうですが、大学生の間でも学校によってこんなことになるのか! と驚いたそうです。

 ドラマは三流大学(もちろん架空)に通う男子大学生と看護学生の出会いからスタート。ドラマ内でも一流大学生に、今でいう「マウントを取られまくる」主人公たちが、残酷に描かれています。

 当時、高校生だった私は、夢中でこのドラマを見ていました。

 日本にはその人物の所属する団体や会社、学校でその人を評価する風潮があります。「●●大学だから優秀、会社がどこそこだから信用できる」と。山田さんはこのドラマを通じて、そんな風潮に一石を投じたかったのではないかと思います。

 山田さんには『車輪の一歩』(1979年)という障害者を主役にしたドラマもあるのですが、こちらも今の時代でも色あせない内容です。それはつまり、バリアフリーや福祉が進んだといっても、まだ不十分であるということなのかもしれません。いずれのドラマも見ごたえがあり、見たあとに考えさせられるものです。

 ちなみに『ふぞろいの林檎たち』には続編があり、1985年放送の第1回のタイトルは「会社どこですか?」でした。

 さて2022年、私は今も山田さんの作品を見て自分を戒めることがあります。(文)