『BRUTUS』2022年3月1日号 No.956(マガジンハウス)の特集は「今考えうる最良のはじめ方カタログ はじめる。」。その中で医師の稲葉俊郎さんが語る「質の良い睡眠」のはじめ方が印象的だった。

 稲葉さんのプロフィールによると、東大医学部卒で循環器内科からスタート、在宅医療や山岳医療にも従事し、西洋医学だけではなく伝統医療、補完代替医療、民間医療も広く修めて、現在は軽井沢病院副院長。「全体生を取り戻す新しい社会の一環としての医療のあり方を模索している」とある。

 その稲葉さんが記事の冒頭で「眠りこそが人生の主体なんです」と指摘する。

 稲葉さんによると、起きているときの意識を外界に向けた生活に重きを置くと「自分の皮膚の内側に命があるのを忘れてしまう」という。

「命とは眠りの時間に育まれるのです。まずは発想を変えることが、質の良い眠りのための第一歩です」

「私たちは普段、お金や人間関係のわずらわしい、情報化された大変な世界で生きていますよね。でもそれは一時の旅みたいなもので、どんな人も必ず、眠りという生命の巣へと戻ります

 そして、起きている時間(外界)と眠りの時間(内界)を行き来するリズムが崩れると、精神が不安定になってしまうらしい。

 人にとって、外界と内界の間にいる夢に近い状態が一番心地よく、この“無我夢中”の状況を意識的に作る練習を続けると、驚くほど睡眠の質が変わるのだそう。

 眠りの質を高めるヒントは『BRUTUS』で確認してほしいが、稲葉さんの説明は、眠りの生理学的メカニズムによる一般的な解説と違って、瞑想(マインドフルネス)やフロイトの『夢判断』をも思い出させるユニークなアプローチだと感じた。

 僕は、好きなときに好きなことをしたいので、規則正しい生活とは無縁で睡眠時間を後回しにして生きてきたが、稲葉さんの「眠りこそが人生の主体なんです」という言葉をきっかけに、“無我夢中”を意識した生活を始めてみようと思う。(DD)