2016年に紀伊國屋じんぶん大賞を受賞した『断片的なものの社会学』(朝日出版社、2015年)の著者は立命館大学教授で社会学者の岸政彦さん。小説家として芥川賞候補になったこともある。だからか、割り切れないもの、理解できないもの、語りきれないものに敏感だ。

 同書は「路上のギター弾き、夜の仕事、元ヤクザ…人の語りを聞くということは、ある人生のなかに入っていくということ。社会学者が実際に出会った「解釈できない出来事」をめぐるエッセイ」(「BOOK」データベースより)。

 その中で見つけた言葉。

〈私たちは、他の誰かと肌を合わせてセックスしているときでも、相手の快感を感じることはできない。抱き合っているときでさえ、私たちは、ただそれぞれの感覚を感じているだけである。

 たしかに。

 どんなに好きで信頼できて気持が通じ合うと思える相手(夫婦、恋人、家族、親友、仲間)であろうと、心が一つになることはない。

 人間は一人一人違う。「似ている」という言葉だって「同じではない」という意味だ。

 共感はすべて錯覚。つまり、人がなにかを感じるとき、その感覚においては皆、孤独なのだ。

 だから、簡単には理解できないものだと分かったうえで、相手の感じていることを想像するしかない。その想像する力が互いの孤独を癒やす。(DD)