ウィリアム・シェイクスピア(1589〜1613)の『空騒ぎ』(1598年作)は、イタリア・シチリア島メッシーナを舞台に貴族の若者たちの恋が引き起こす騒動を描く恋愛喜劇。

 ハンサムで純真な若者クラウディオと美しく無垢な娘ヒーローは、すぐに恋に落ちて結婚を決めるが悪意ある嘘によって破局。一方、女嫌いの独身主義者ベネディックと勝ち気な娘ベアトリスは顔を合わせれば丁々発止の口喧嘩を繰り広げる。対照的な二組のカップルは最終的にすれ違いを乗り越えて結ばれるのだが、どちらかというとサブキャラであるベネディックとベアトリスとのウイットあふれる言葉の応酬が、この物語の魅力とされている。

 そんな口達者な二人が、「傲慢な男」「高慢で人を見下す女」という自分たちの悪評を知り、反発するどころか素直に欠点を認め、改めようとするときのセリフがいい。

「そのような陰口を叩かれて、立派な人生を送れるはずがない」(ベアトリス)

「悪口を言われて、我が身を正すことのできる人間は幸せと言うべきだ」(ベネディック)

 でも、二人が他人の悪口を恐れず、逆にそれを心の糧にできたのは、実は「傲慢」「高慢」と叩かれた自尊心の持ち主だからこそ、だと思う。(DD)