私は記憶力があまりいいほうではありません。過去のことを映像として覚えているとか、写真のようにそのときの様子がそっくり頭に焼き付いて忘れないとか、すごい記憶力の持ち主の話を聞くと、さぞ勉強も不便なくできただろうなとうらやましく思います。

 自分の身に起きた過去の出来事も大枠とそのときの感情は覚えているのですが、誰が何を言ったとか、自分が何をしたとか、細かい部分は砂のようにサラサラと記憶から抜け落ちていきます。楽しいことやうれしいことはずっと忘れたくないと思うのに。

 でもあるとき、記憶力のいい人は他人から言われた嫌なことをなかなか忘れることができなくてつらい、という事実を知って、私の短所が長所になるときもあるんだと気づきました。

「覚えていて悲しくなるより、忘れて笑っているほうがいい」とは、19世紀のイギリスの詩人クリスティーナ・ロセッティの言葉です。人間、未来を向いて笑っているのが最強なのかもしれません。(知)