インターネットを通して「大人も怪異が好きなんだ」と気づく
──そこから中学・高校と上がっていくわけですが、変化はありましたか?
「中学生になると家にパソコンがきて、インターネットが使えるようになったんですよ。当時は、“怖い話を投稿できる小規模なWebサイト”が乱立していたので、そこで都市伝説系などの怖い話を読むようになりました。
そこで、“子どもだけでなく大人も怖い話が好きなんだ”って気づいたんですよ。一気に世界が広がった感覚がありましたね」
──なるほど。当時はSNSもなく、個人サイトの掲示板で交流する感じでしたよね。お気に入りだったサイトとかあるんですか?
「特に『Alpha-web 怖い話』というサイトをよく見ていました。もう今はつぶれちゃったんですけど、ここから生まれたホラー話も多いんですよ。そのほかでいうと、2ちゃんねるの『オカルト板』で流行(はや)っていた『死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?(通称・洒落怖)』もよく見ていましたね」
──書籍とインターネットの話とでは、やっぱり話の毛色も違うんですか?
「インターネットだと書籍と違って文字数の制限がないので、1つの話を濃く書けるのが特徴です。『学校の怪談』では『人体模型が動く』というエピソードだけだったのが、ネットだと『どうして人体模型が動くようになったのか』という背景やストーリーまでを設定できます。
例えば、'01年に『ひきこさん』という話が『Alpha-web 怖い話』に載りました。『子どもを引きずってあやめる』という、斬新すぎる手法を使う怪異なんです。その行為に及ぶ背景として、『ひきこさん自身が子どものときにいじめられたトラウマで、大人になって引きこもりになってしまった』という設定があるんですね。当時のいじめっ子への復讐として、今でも子どもを引きずるわけです」
──なるほど。「ストーリー」を見せやすくなったわけですね。
「そう。インターネット発の怪異の場合、単純に怖がらせるだけでなくストーリーやキャラクターが追加されることで、より怖さが増すんですよね。
逆にいうと、口頭伝承の怪異は設定がゆるいので、広まるにつれてキャラクターが変化していきます。例えば、有名な『口裂け女』は、うわさが広まるにつれて空を飛んだり海を泳いだりするようになる(笑)」
──(笑)。うわさ話ならではの面白さもあるわけですね。中高生のとき、お気に入りだった怪異は?
「『カシマさん』が好きでしたね。女性の怪異で、腕や足が欠損しているんです。カシマさんの話を聞いてしまうと、その人のもとに現れて「腕はいるか」「脚はいるか」と質問してくる。それに正しく答えられないと人体の一部を奪われるという話でした。
ただ、正しく答える以外に、“カシマさんの話を5人以上に広めるとカシマさんは来なくなるよ”っていう、呪いの避け方もある。こう、なんというか……かなり悪質な(笑)」
──ちょっとこれを記事にしてしまうと、大勢の方が呪われそうで怖いですね(笑)。
「そうですね。『呪いが感染するタイプの怪異』という意味では、『リング』の貞子の先輩にあたるような存在です。それに『不幸の手紙』の様式も追加されている怪異なんですよ。
当時は、“こういった感染するタイプの話があるのか”って驚きましたし、本気で怖かった。少なくとも、僕のところにカシマさんは来なかったですけど(笑)」
怪異は古くから、時代のトレンドとともに変化してきた
──当時、怪異の話は友だちや親御さんと共有したりしていたんですか?
「いえ、友だちはわりと興味がなかったみたいで、学校で話すことはありませんでしたね。親はどっちかというと嫌がっていて、“怖い話をすると(幽霊などが)寄ってくるからやめておけ”と、よく言われてました」
──では完全にひとりで調べて、ひとりで楽しんでいたんですね。
「そうですね。学校が終わって家に帰ってきてからネットで調べたり、京極夏彦先生の小説を読んだりしていました。休みの日は図書館で民俗学や文化人類学の研究資料を読んだり、コンビニにある都市伝説系のマンガを買って読んだりしていましたね」
──「誰にも共有せずに、ひとりで楽しめる」っていう感覚がすごすぎます。どういったモチベーションで続けていたんですか?
「単純に、調べれば調べるほど新たな怪異が見つかるので、終わりがなかったんですよ(笑)。怪異の類は古代から現代まであらゆる話がありますし、今でもインターネット上では毎日のように新たな怪異の話が生まれています。だから、なかなか『やり切った』という感覚に到達できないんですよね」
──オタクっぽくいうと「沼が深い」というか……。
「はい。しかも、調べていくうちに話がつながることもあります。2ちゃんねる発の話で登場した怪異が、実は江戸時代の伝承とリンクしていたりするんですよね。『現代の怪異の背景を探す』という楽しみもありました」
──「古い時代の妖怪」が「現代の怪異」につながることもあるんですね。ちなみに古くから現在にいたるまで、怪異はどのように変化していくんですか?
「時代ごとのトレンドによって変化しますね。例えば奈良・飛鳥時代はヤマタノオロチなどの『日本書紀』に基づいたものが多かったり、江戸時代になると出版が発達するので、創作物に怪異がたくさん出てくるようになったりします。
明治・大正期は妖怪研究が始まった時代で、かなり怪異への熱が高いんです。柳田國男先生が『遠野物語』(※)を書いたり、夏目漱石や芥川龍之介が怪異ものの小説を出したりしています。
(※ 岩手県遠野地方に伝わる逸話、伝承などを記した説話集)
現代でいうと、1970〜80年代にはオカルトブームがある。'90年代になると先ほどの『学校の怪談』など、子ども向けの怪異の本が増えました。
'00年代に入るとインターネット上で描写が細かい話が増えるんですが、'10年代になると、2ちゃんねるの解体もあってネットの文献は衰退し、代わりに動画コンテンツが増えます。'00年代に掲示板で書かれていた話が朗読や解説動画でリバイバルされるようになるんですよね。
今はSNS上でよく怪異の話が描かれています。TwitterやTikTok、pixivなどで、自身の体験談として発信している方がたくさんいらっしゃいますね。ただ、ネット掲示板と違って完全な匿名ではない場合もあるため、必ず生還するオチになるんですよ。話のなかで自分を殺してしまうと、次の話を書けないので(笑)」