晩夏のお昼前。とある取材のため飯田橋駅B4b出口を上がって地上に出ると、目の前に飯田橋ギンレイホールがドーンと鎮座していました。「あれ?こんなところにあったっけ」。映画学生時代はよく通っていましたが、最近はめっきりご無沙汰していた名画座中の名画座です。「今日はなにをやるのかな」とガラスウィンドウを見ると、観そびれていた濱口竜介監督の『偶然と想像』と杉田協士監督の『春原さんのうた』の二本立て。しかも、上映後に両監督がやってきてトークするというではありませんか。

 偶然、取材先が飯田橋ギンレイホールのすぐ近くで、偶然、『偶然と想像』と『春原さんのうた』二本立て上映の最終日で、偶然、両監督のトークショーが開催される。

 「こんな偶然あるのか!」ということで、昼過ぎに終わった取材後すぐにチケットを買い、はやる気持ちで夕方からの上映を待ちました。

 開場30分以上前に並んだにもかかわらず、チケット売り場から地下鉄の階段を下りてまで続く長蛇の列。200席以上の客席があっという間に埋まり満員御礼。

 ここで『偶然と想像』と『春原さんのうた』のレビューをすると文字数がとんでもないことになってしまうので、みなさんにはぜひ観ていただくとして。上映でもトークショーでもワッと沸き起こる笑い声、拍手、これを逃したら次はないという熱気と緊張感。久しぶりにこの感覚を味わって、やっぱり映画館で映画を観ることは最高で格別なのだとしみじみ感じ入りました。

 一人だけど独りじゃない。それぞれ違う人々がその時間だけ集まり同じものを観る。そんな映画館での「映画体験」そのものが「偶然と想像」の産物なのだと、胸が熱くなりました。何気ない日常も、たくさんの偶然に運ばれ、導かれ、呼ばれる、奇跡みたいな瞬間の積み重ねなのかもしれません。

 私はこれからも映画に助けられ勇気をもらい、映画館という世界の広場に魅了されるでしょう。

 約6時間の魔法のような時が終わり、それぞれがちりぢりに夜の闇に溶け込んでいきます。そんな光景にちょっぴり寂しさを覚えながら地下鉄への階段を降りているとき、「楽しかったなあ。映画大好き。幸せだな」という思いがジワ~っとグワ~っとこみ上げてきました。

 とてもシンプルなことですが、好きと楽しいが幸せに繋がる。自分だけの幸せを他のなにものにも託さない。そんなことを感じさせてくれた、偶然のオンパレードの一夜でした。(福)