とある日の帰り道、私はとても気を揉んでいました。家に帰ったらやりたいこと、やらなくてはならないことをあれこれ考えながら電車に揺られていたのですが、幾度となく電車が止まり、思い通りに動き出さないことに、その日はなんだかやきもきしていたのでした。

 やっと電車が駅に到着し「しまった、晩ごはんの食材を切らしていた……」と慌てた私は、最寄のスーパーに駆け込みました。必要なものをそそくさとカゴに押し込めると、すかさずレジに飛び込み、いざ食料品を袋に詰めようとしたら、会計時に伝えたレジ袋がカゴに入っていないことに気が付きました。

 先ほど対応してくれた男性店員さんに声をかけると、「あ!すみません」と横から手が伸びてきて、サッと袋を差し出されました。すると、店員さんの横にいた、女性店員さんが「そういうときは、きちんとすみませんと伝えるんだよ?もう一度、ちゃ~んと伝えてごらん?」と諭すように優しく声をかけます。(どうやら、外国籍のアルバイトの方のようでまだ見習い中なのか、先輩の店員さんがつきっきりで教えているようでした。)

特に気にも留めてもいなかったことと、また急いでいるせいもあって、「そんな大層なことでもないのに……」と思った私。

すると、その時そっと、男性店員さんがかごに手を添えながら、はにかんだ笑顔で「すみませんでした」と言い直してくれたのでした。そんな彼を見て、女性店員さんと、私で顔を見合わせると、思わずにっこり笑顔に。こちらこそ“たかが、あいさつ”と、しっかりと受け止める体制ではなかったことを反省したひとコマでした。

心のこもったあいさつはやはり気持ちがよいものだと、そのふたりの店員さんのおかげで、はやる気持ちもどこかに忘れ、清々しい気持ちで家路についたのでした。(本)