昨今、1980年代のアイドルやヒット曲が再び注目されています。往時を懐かしむ中高年ファンだけでなく、若い世代にはむしろ新鮮なコンテンツとして受け入れられているようです。

 昭和を代表するスター、山口百恵さんが結婚のため芸能界を正式に引退したのが’80年10月15日。同じ年には入れ替わるように松田聖子さんらがデビューし、その後の女性アイドル全盛期を迎えることになります。エンタメの分野にとどまらず、日本の社会全体がエネルギーにあふれている時代でした(遠い目)。

 引退の10日前に行われた日本武道館でのラストコンサート。「幸せになります」と言ってマイクをそっとステージに置くシーンは有名ですが、笑えるエピソードや自らの人生観などを織り交ぜた百恵さんならではのMCも尊いのです。

 例えば、『「スター誕生」AGAIN』の曲紹介。

人間は最終的にはひとりかもしれないけれど、どんな人たちと、どんな関わり方をして、どんなふうに生きてきたかが、とても大事なんだと思います。そんな思い出があるとないとでは、寂しさが全然違う気がするんです」

 この名言には、それなりに人生経験を積んできた身として激しく同意するしかありません(百恵さんは当時、21歳の若さでしたが)。

 そして“一期一会”をテーマに自ら作詞した『一恵(いちえ)』について、

たくさんの人間が生きていて、呼吸していて……そんな中で言葉を交わしたり、見つめ合って笑い合える、ときにはケンカをしたり、ふれ合いを持てるのは本当にごくわずか。そんな縁をこれから先ずっと大事にしていきたいし、新たに訪れる出会いにも期待しているんです

 引退後はいっさい表舞台に登場せず、現在はキルト作家として活動する百恵さん。歌手人生最後の日に残した言葉どおりの人生を送っていることでしょう。(純)