ルイ16世の妃であり、フランス革命で処刑されたマリー・アントワネット。冒頭のひと言は、食糧難や重たい税に苦しむ国民の生活を全く理解しない、ぜい沢の限りを尽くした“わがまま王妃”を表す言葉として非常に有名ですが、実はこのセリフ、彼女の発言ではないということをご存じでしょうか。

 起源となっているのは、フランスの哲学者、ジャン=ジャック・ルソーの自伝『告白』の一説にあります。

 ある日ルソーは街を歩いていると、「ワインのお供にパンが欲しい」と思いました。しかし、そのときはよそ行きのしゃれた服を着ていたため、普通のパン屋に入るのがはばかられたところで、“ある王女”の発言を思い出します。

「百姓どもには食べるパンがございません、と言われて(その王女は)、“ではブリオッシュ(パン菓子)を食べるがいい”と答えた」

 そこでルソーはパン屋ではなく高級な菓子店に向かった、という流れです。

 この『告白』が書かれたとき、マリーはまだ幼く、時系列的に“ある王女”は彼女ではありえないのです。

では、なぜマリー・アントワネットの“名言”として広まってしまったのか。後年、アンチ王政の歴史家などが当時のフランス王政のネガティブキャンペーンとして、キャッチーで都合のいいこの言葉を結びつけて流布したから、といった説がありますが、明確な理由や起源は明らかになっていません。

 このように、非常に有名な言葉や出来事でも、中身をしっかり見ていくと、実は捻じ曲げられたり、間違った解釈をされたりしていることはよくあります。特にこのご時世、何が真実で何が誤りかを読み手が判断することは、非常に難しくなっています。誰かの適当な発言や事実を誤認した投稿をリツイートしたりシェアしたりするだけで、一瞬で世論は傾いてしまう。そんな世の中だからこそ、『fumufumu news』は、この“名言”を訓戒として、正しいことを正しく届けるメディアであり続けたいと思っています。

 ……気づけば選挙の演説みたいになってしまったので、最後にスローガンを。「信頼できてためになる記事が読みたいなら、fumufumu newsを見ればいいじゃない」(横)