かつて週刊誌の編集部にいたころ、年末の風物詩といえる「お悔やみ特集」の企画を何度か担当しました。その年に亡くなった有名人の方々の写真を集め、生前の取材エピソードや関係者の証言などで人物像を伝える記事です。11月後半くらいから掲載リストを作りはじめるのですが、いつも締め切りギリギリに大物芸能人の訃報が飛び込み、大慌てで誌面を差し替えていたことを思い出します。

 前置きが長くなりましたが、今年は俳優の宝田明さんも旅立たれました。映画『ゴジラ』やミュージカルなど数多くの代表作の中で、個人的に印象深いのはNHKの朝ドラ『カーネーション』(脚本は『エルピス−希望、あるいは災い−』の渡辺あやさん)で演じた、ヒロインの祖父役。娘や孫には甘いけれど実業家としての厳しさと清廉さを併せ持つダンディーな姿に、ご自身もこんな人なのかなぁと思わされました。

 11歳のときに満州で終戦を迎えた宝田さんは、ソ連兵から銃撃され生死をさまよい、兄とは生き別れ、命からがら日本に帰国。その苛酷な体験を語ったインタビューに私も心を痛め、戦争の狂気に思いをはせました。

宝田明さん 撮影/佐藤靖彦

 そして80歳を超えて現役で活躍する秘訣についても、たびたびメディアの取材に答えていた宝田さん。

人間って知らないことが山ほどあって、知らないまま終わるのが人生なの。大切なのは知ろうとするかどうか。知らないのは恥じゃない。僕はどんどん聞きに行きますよ」(『ハルメク365』)

役者ってキャンバスに使われる絵の具。高齢になったから、と固まって絵の具のチューブから出にくくなっちゃいけない。いつ出されても、パッと鮮やかな色が出せるようにしておきたいんです」(『スポーツ報知』)

 年齢に関係なく好奇心を持ち続け、新しい世界に飛び込んでみる──宝田さんのような軽やかさ、柔軟さを忘れずにいたいものですね。(純)