昨年12月28日放送の『徹子の部屋』(テレビ朝日系)、ゲストはタモリさんだった。私が記憶している限りもう随分と前から同番組では、その年の最後の放送は彼を迎えると決まっているように思う。大掃除の手をしばし休めて、黒柳徹子さんとの軽妙なやりとりを楽しむ。この日も彼は淡々と話していた。それでいて、いつもながらなんとも面白い。

 番組の中で、黒柳さんから「来年はどんな年になるでしょうかね」と問われたタモリさんは、少し考えて「誰にも予測できないですよね」と前置きしながら「新しい戦前になるんじゃないですかね」と答えた。黒柳さんは「新しい戦前……」と言葉を継いで、他の話題に移った。ほんの数秒のやり取りだったが、この会話がSNSなどで話題になっている。

 冬の穏やかな午後のやりとりの中で、タモリさんがなぜこの発言に至ったのかは、わからない。先の大戦が終わって80年近くが経ち、その戦前を知っている世代はほとんどいない。一方で、防衛費増強のために増税が必要だと熱く訴える岸田首相がいる。もちろん総理とて戦前を知る世代ではない。来月、ロシアがウクライナに侵攻して1年になる。中国も北朝鮮も脅威であることは、その振る舞いから理解できる。世界全体が「好戦的」になっているのだろうか? もしそうならば戦争にならないように外交努力するのが政治家の仕事だと思うのだが……。今のところ、その様子は伝わってこない。タモリさんの言葉が話題になる背景には、多くの人々が漠然と感じている不安を「言葉にしてくれた!」と共感しているからなのか?
 1月も半月が過ぎた、今年が新しい戦前にならないことを祈りたい。(文)