同業者のひとりとして思わず膝を打ったこのセリフ。現在放送中のNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』で、ヒロイン・舞(福原遥さん)の幼なじみで歌人を志している貴司(赤楚衛二さん)に対し、「中堅出版社のうさんくさい短歌担当編集者(ドラマの公式HPより)」であるリュー北條(川島潤哉さん)が放ったひと言です。

 貴司のビジュアルに目をつけて売り出そうとしたり、作風が地味だと切り捨てて売れ線の短歌作りを強いるなど、会社の利益しか考えていない俗物キャラのような彼ですが、その真意は以下のセリフに表れていたのでした。

「歌集を出したいんならさぁ、ちゃんと大勢に伝わる歌を書いてよ。短歌を作るってことは自分の中の本当の気持ちを差し出すってことでしょ」

「自分の殻を破って初めて歌人は成長する。自己満足の歌はもういらない。一人でも多くの人間に伝わる歌を書いてほしい」

 さて私自身これまで本や雑誌、WEBメディアの記事の編集に携わり著者さんやライターさんたちに仕事をお願いしてきましたが、こんな直球のダメ出しをしたことはありません。原稿が届いて「ちょっとこれは……」と思っても強く言えず、もごもごと相手をなだめながら、なんとか最低限のレベルまで書き直してもらうパターンが多いような。

 それに「売れなきゃ意味ない」みたいなニュアンスの言葉って、なかなか正面切って口にしにくいんですよね。「売れなかったけど内容はよい本」といった言い訳をしがちでもあります(編集者あるあるだと思う)。

 作品を世に送り出すことの本質をとらえ、作家の才能を的確に見抜く眼力を持ち、自らの信念を臆せずに伝えられる──実は敏腕編集者のリュー北條。ドラマでは脇役のひとりですが、リスペクトすべき仕事人です。(純)