例えば脇役の俳優が映画に出て観客の印象に強く残る演技を見せたり、お笑い芸人が短い出番でも十分に目立ったときに使われる、「爪痕を残す」という表現。爪痕=インパクトが監督やプロデューサーの目にも止まり、次の仕事につながるというポジティブな意味ですが、昔はそんなふうに言わなかったけどな、と最近なんとなく気になっていました。

 言い出しっぺは誰なのか検索してみたところ、M-1グランプリで若手芸人のネタに「爪痕残したな」と松本人志さんがコメントしたことで広まったのでは、という説がありました。確かに松ちゃんがよく言っていそうなイメージです。

 が、本来は災害や事件などによって悪い影響が後々まで及ぶことを表す言葉であることは、みなさんもご存じでしょう。

 近年、台風や豪雨などがますます激甚化する日本。土砂で木々がなぎ倒され、道路が冠水し、家屋が崩壊する状況は珍しくありません。3・11から12年たちますが、私の住む町も液状化の爪痕がまだ残っており、夜道を歩いていると路面の凸凹に躓(つまず)きそうになることも。

 東日本大震災やコロナ禍を経て、当たり前だったものが当たり前ではなくなり、私たちの価値観は大きく変わりました。次に起きるであろう災害への備えやエネルギーや復興をめぐる課題など、私たちが今いる“現在地”について今日だけでなく常に意識を向けていたいものです。(純)