石坂泰三さんという方をご存じですか? 官僚から転身し30歳でサラリーマンとなり、第一生命保険や東京芝浦電気(現・東芝)の社長を務め、経団連会長を4期12年務めた、財界の大物です。会社経営の秘訣を問われた際には、「秘訣なんてない。とにかく勉強することが大切だ」と答えたといいます。

 ここまでお伝えした限りでは、“人生を順風満帆に進めてきた努力家”という印象を抱く方も多いと思いますが、石坂さんのキャリアには数々の試練があったそう。彼が大学卒業後に入った逓信省は、大蔵省や内務省と違い、人気のある官庁ではありませんでした。しかし石坂さんは「鶏口牛後」と考え、あえて逓信省を選んだんだと。

 次の第一生命も当時は大きな会社でなく、家族には反対されたものの、社長に就任。そこで経営の腕前を発揮して、大手の会社へと成長させました。東芝も、経営が芳しくなく倒産も噂されていたほどのところを、石坂氏の活躍によってV字回復に至ったそうです。さらに石坂氏は経団連会長時代に、大阪万博も成功に導いています。

 この背景を知ると、冒頭で紹介した彼の言葉「人生はマラソンなんだから、100メートル走で1等をもらったってしょうがない」に、ずしりと重みを感じませんか? 短期間だけ頑張ってバテてしまったり、目先の成功に一喜一憂したりを続けていては、長い目で見たとき、さほど意味がないのでしょう。できること、やるべきことをコツコツと積み上げ、人生における大勝利を目指したいものです。(横)