「ギザギザハートの子守唄」は「出だしの歌詞のインパクトは越えられなかった」

 続いてSpotify第3位は、デビュー曲「ギザギザハートの子守唄」。こちらは、もともと芹澤廣明が真田広之への提供作として、別の作詞家・康珍化と組んで書いていたが、真田側では採用されなかったもの。チェッカーズの場合は、デビュー前からシングル3枚のA/B面として6曲を準備することが決まっており、A面用として録音した、売野作詞の「哀しくてジェラシー」「涙のリクエスト」のほかに、さらにインパクトが欲しいということで、ボツになっていた「ギザギザハートの子守唄」を検討したらしい。

「でも、“シングル3曲とも同じ作詞家でやりたいから、売野さんも同じメロディーで歌詞を書き直してくれ”と言われたんだ。というのは、康さんの歌詞の中に《仲間がバイクで死んだのさ》とあるけれど、(当時のチェッカーズの所属事務所の親会社がYAMAHAだったので)問題だと言われる可能性もあったからね。それで、俺も書いてみたんだけど、出だしの《ちっちゃな頃から悪ガキで 15で不良と呼ばれたよ》よりもインパクトのある歌が書けなかった。俺が書いたのは、悪ガキの歌にならずに、泣かせる結構イイ歌になっちゃった(笑)。それで案の定ボツになって、『ギザギザハート~』は最初の歌詞のままでいくことになったんだ

 最終的に、《仲間がバイクで死んだのさ》をそのまま生かしたとは驚きだが、当時は今のようにSNSもないし、本作のヒット時は「涙のリクエスト」「哀しくてジェラシー」と3作同時にベストテン入りをして大フィーバーになっていたし、何より仲間が亡くなったことを示す歌詞が作品にただよう悲哀を演出しているし、まったく問題にならなかったのだろう。

「いやあ、どの思い出も懐かしいねえ」と目を細める 撮影/伊藤和幸

「哀しくてジェラシー」には浜口庫之助のようなフレーズと演歌っぽさを挿入

 そしてSpotify第4位には、その「哀しくてジェラシー」がランクイン。

 当時から大ヒットしていながら、「ギザギザハートの子守唄」や「涙のリクエスト」に比べ、これまであまり語られていないので、改めて売野本人に作品の意図を尋ねてみた。

「これは曲先(曲が先に作られ、後から詞をつける流れ)で作詞したんだけど、芹澤さんのメロディーを聴いて、浜口庫之助先生のような雰囲気を感じたんだ。浜口先生の歌は《僕は泣いちっち~》とか、ちょっと変わったフックがあって、実験的にそういうフレーズ(“ah han han”や“lonely lonely lonely lonely”)も入れつつ、あえて演歌っぽいフレーズも使ってみたんだ。だから、《男と女はすれ違い~》や、《二つの淋しさ重ねたら~》といった言葉が入っている。それが親しみやすさや、口ずさみやすさにつながっているのかもしれない。どことなく哀愁がただよっている楽曲だよね」

 当時は、勢いもあって何を出してもメガヒットしていたが、こんな風に1曲ずつ繊細かつ熱い思いがこめられていることを知ると、さらにじっくり聴き返してみたくなる。

どのエピソードもとても生き生きと語ってくれた姿が印象的だった。次回もお楽しみに!   撮影/伊藤和幸

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 ここまで、有名どころの4曲を中心に語ってもらった。インタビュー第2弾では、5位以下の人気曲や、売野が「ギザギザハートの子守唄」について「実は、この話には続きがあって……」と初めて語った衝撃エピソードについても紹介したい。

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(取材・文/人と音楽をつなげたい音楽マーケッター・臼井孝)


【PROFILE】
売野雅勇(うりの・まさお) ◎上智大学文学部英文科卒業。 コピーライター、ファッション誌編集長を経て、1981年、ラッツ&スター『星屑のダンスホール』などを書き作詞家として活動を始める。 1982年、中森明菜『少女A』のヒットにより作詞活動に専念。以降はチェッカーズや河合奈保子、近藤真彦、シブがき隊、荻野目洋子、菊池桃子に数多くの作品を提供し、'80年代アイドルブームの一翼を担う。'90年代は中西圭三、矢沢永吉、坂本龍一、中谷美紀らともヒット曲を輩出。近年は、さかいゆう、山内惠介、藤あや子など幅広い歌手の作詞も手がけている。

【INFORMATION】

“売野雅勇 作詞活動40周年記念 オフィシャル・プロジェクト MIND CIRCUS SPECIAL SHOW「それでも、世界は、美しい」”開催!

・日時:2023年7月15日(土) 16時開場/17時開演
・会場:東京国際フォーラム ホールA
・料金:全席指定 税込15000円
・音楽監督:船山基紀
・出演:麻倉未稀 / 稲垣潤一 / 荻野目洋子 / 近藤房之助 / さかいゆう / 杉山清貴 / 東京パフォーマンスドール(木原さとみ 他) / 中島愛 / 中西圭三 / 中村雅俊 / Beverly / 藤井尚之 / 藤井フミヤ / MAX LUX / 望月琉叶 / 森口博子 / 山内惠介 / 山本達彦 / 横山剣 ほか(50音順。都合により出演者が変更になる場合あり)

※演目詳細やチケット情報は特設サイトへ→https://masaourino40.com/

 
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