「性的動画を撮影することと、拡散することは、まったく意味が違う」
法廷での彩乃は、休憩をはさんで50分にもおよぶ質問に、自分の言葉で証言して、聡明な印象を受けた。鑑定した精神科医は「社会常識も、コミュニケーション能力もある」と証言した。
一方、被害者の健太さんは明るい性格で、勤務していた会社での評判もよい青年だった。
彩乃は動画がすでに拡散されていると思い込んでいたが、実際は拡散されていなかった。被害者側の弁護人は、「性的動画を撮影することと、それをSNSなどにアップすることは、まったく意味が違う。審議では区別されていない。そこを理解して判断してほしい。性的動画を拡散することはリベンジポルノ法で罰せられる行為。犯行を起こす前に警察や弁護士に相談することができたはず」と訴えた。
どうして事件が起こってしまったのか。なぜ防ぐことができなかったのだろうか。惨劇が起こる前に、何度か引き返すチャンスがあったはずなのに……。
別れたときに別居していれば、コロナ禍がなく予定どおり留学していたら、健太さんが動画を消去していたら、彩乃が動画が拡散されていないことを知っていれば……。
「(犯行前に)家族や友人に相談すればよかった」と彩乃は話した。
「許されないことだと思いますが……いつかお墓にお参りできれば、と。永遠に謝りたいと思っています」とも。
《執筆者プロフィール》
青山 泰 (あおやま・たい) 山口県生まれ。慶応大学法学部法律学科卒業。週刊誌で事件取材、皇室取材などを担当。月刊誌や医学書で編集&ライター。現在は、定期券で東京地裁に通い、ほぼ毎日傍聴を続けている。趣味はスパイスカレー作り。32種類のスパイスを常備し、究極カレーレシピ作成の試行錯誤を続けている。