もし、人類が絶滅の危機に瀕したら? そのとき、私たち人間は人類という種を残すために何をするだろうか?

 そんな壮大なテーマで人類史の未来を描いた川上弘美さんのSF長編小説『大きな鳥にさらわれないよう』を読み終えたのですが、日常の中でもふと作品のことを思い出すほど、深い余韻を引きずっています。

川上弘美『大きな鳥にさらわれないよう』(講談社)

 あらすじを説明するのが大変難しい作品なのですが、端的に言えば、何らかの破滅的事象によって(それは戦争や人為的に引き起こされた災害を想起させます)、人口が減り続けて衰退した人間を守るための大きなシステムが運用された世界が舞台で、人間は各地で隔離され、感情を持たない「母」のもとで育ち、クローンで増殖する「見守り」という人間に観察されている……。生態系のピラミッドの頂点だった人間がその愚かさによって滅亡していく中で、果たして希望はあるのか? よい意味でも悪い意味でも「人間らしさ」とは何なのかが描かれていきます。

 この小説の中で特に印象に残ったのが、今回の一節です。カイラという人間の女性に対して、「母」が言った言葉です。

 社会経済やテクノロジーなど、自分たちを満足させるために飽くなき発展を続けてきた人類は、一方で生み出すものより多くのものを破壊している。温暖化や原発事故、戦争など目に見える課題を私たちは解決していけるのか、考え出すとどんどん怖くなることがあります。でも、川上さんは決してこの小説で「人間」という存在を諦めていません。それが私の心に光を届けてくれます。ぜひ、多くの人に読んでほしい小説です。(知)