舌頭千転(ぜっとうせんてん)とは、俳人・松尾芭蕉の言葉といわれております。
俳句を作る際に、最初に作った句を声に出して千回転がしてみて、まだ違和感があれば推敲の余地があるという意味です。
先月、高校時代の恩師が他界しました。卒業して30年以上会っていなかったのですが、ふとしたきっかけで、恩師の主宰する句会に参加するようになりました。コロナの前から月1回の句会。5月に56回目が開催されました。実に3年ぶりに集まっての句会でしたが、それが最後となりました。その恩師に注意され、アドバイスされた際に必ず出てきたのが「舌頭千転せよ!」という言葉でした。
50歳を過ぎると叱ってくれる人がいなくなるものです。でも月1回の句会では、こっぴどく叱られておりました。出版社に勤めているということもあったのか、他の参加者よりも当たりがきつかったように思います。コロナが蔓延し、先生はリモートでの句会にもどかしい思いをされていたようです。私は、先生に添削された俳句が、途端に瑞々しいものに変わるのが毎回、楽しみでした。その先生が最後に褒めてくれたのが、今年1月に提出した
《白杖の人息白し古鳥居》
視覚障害の方が初詣に来ていた様子を詠んだのですが、「古鳥居」が近所の神社を表現していて、良いね!と言ってくださいました。
先生が亡くなり句会は解散となりましたが、中年になった私に教えてくださった多くのことは忘れずにいたいものです。(文)