今年で終戦から78年。夏が来ると花火や祭にワクワクすると同時に、戦争という悲しい過去が心の中で鉛のように重くのしかかります。

 戦争を描いた作品で印象に残っているものの一つが、あまんきみこさんの絵本『ちいちゃんのかげおくり』です。小学校3年生の国語の教科書にも掲載されていたので、知っている人も多いのではないでしょうか。

『ちいちゃんのかげおくり』あまんきみこ=作 上野紀子=絵(あかね書房)

 お父さんが出征する前に、お母さん、お兄ちゃん、ちいちゃんの家族4人で「かげおくり」という遊びをします。地面に映った影を10数える間、瞬きせずに見つめて空を見ると、その残像が空に映るというもの。雲一つない透き通った青空のときにぴったりな遊びです。お父さんはちいちゃんにこう教えます。

《とお、かぞえるあいだ、かげぼうしを じっと見つめるのさ。とお、といったら、空を 見上げる。すると、かげぼうしが そっくり 空に うつってみえる》

 写真を撮ることが贅沢だった時代、このかげおくりがちいちゃん家族にとっての記念写真だったわけです。

 その後、お父さんは戦死、空襲に遭ったお母さんとお兄ちゃんは亡くなり、二人とはぐれたちいちゃんも天国へ旅立ちました。あまりに悲しすぎる結末ですが、ちいちゃんが息を引き取るとき、家族みんなの声が聞こえて再びかげおくりをします。青い空のもとで家族がまた会えてよかった。つらい中で少し安堵する、複雑な感情に襲われます。

 大人になって、この物語の伝えたいことがよくわかるようになりました。こんな悲しい出来事はもう二度と繰り返してはいけない。今年の夏もその思いを確かめながら過ごしたいと思います。(知)