先日、多摩大学大学院名誉教授で田坂塾塾長、多くの著書を出されている田坂広志さん『教養を磨く』(光文社新書)を拝読しました。田坂さんはとても思考が深く、刺さる金言がたくさんありましたが、中でも強く心に響いたのが、この「幸運は不運の姿をしてやってくる」というくだりです。

 田坂さんは、人生をじっくり見つめるのならば、幸運/不運、幸福/不幸、成功/失敗、などというものは、簡単に分けることはできないと言います。なぜなら、われわれの人生において、しばしば幸運は「不運な出来事」の姿をしてやってくるから。実際、それは昔から「塞翁が馬」の寓話としても語られてきたことだと。

 思い返せば私も、これまでの人生の中で、毎日のように泣いて過ごした日々や、もう死んでしまいたいと思った夜、目の前が真っ暗になるようなことが何度かありました。そのときは絶望の淵に立っているようで、何を食べてもおいしくないし、眠れないし、周囲の声も耳に届かなくなるなど、「もう散々だ」という気持ちでいましたが、何年も経って振り返ると・・・。あのときの衝突があったから、あのときの失敗があったから、あのとき、とてつもなく大きな悔しさを味わったから、ひとまわり成長し、学びを得た自分がいるのだと思えています。

 ショッキングな出来事が起こった直後や、つらく、しんどい毎日が続いている最中は、明るい未来を信じられなくなりがちですが、いかに逆境や挫折に見舞われようとも、それも含め、自分に与えられた、かけがえのない人生ならばその人生に起こるあらゆるものを受け入れ、肯定し、自分の糧にして生きていきたい。そう思えたおかげで、最近心の中にかかっていた霧が、少しずつ晴れてきた気がします。(横)