先日、高校の同窓会の幹事会が開かれました。コロナが5類になり、数年ぶりに集まった次第です。私が卒業したのは都立高校なのですが、前身は東京府立高等女学校でした。コロナ前に開かれた同窓会にその高女時代の卒業生がいらして講演を聴く機会に恵まれました。当時おそらく90代だったと思います。矍鑠(かくしゃく)とした女性は、戦時中の話をしてくれました。戦時下、英語は敵性語として使ってはならず、ましてや高等女学校の生徒が学ぶなんてできなかった時代です。

 ある日、体育館に生徒を集めて、先生が「この中で英語を学びたい者はいるか?」と呼びかけたそうです。何人かの生徒が挙手すると、放課後に内緒で英語の授業をしてくれたという話でした。軍部に知られたら先生も生徒もどんな処分を受けることか? 今では想像もできませんが、それは相当な覚悟が必要だったのではないかと思います。その女性は「わが校は生徒の自主性を重んじることを大切にしています、その当時からの伝統です」と少し誇らしげに話していたのが印象に残っています。

 私が通っていた約30年前も自由な校風で生徒の自主性を重んじる学校でした。義務教育を終えて、入学したその高校は制服もなく大人として扱ってもらっているように感じました。もちろん、その自由には責任が付いて回るということも高校時代に学んだことのひとつです。

   大先輩のお話から戦争中でも英語を学びたいと意志表示をした学生の勇気や向上心、学生を思う先生の教育者としての矜持(きょうじ)を感じました。戦後78年、8月のテレビでは戦争もののドキュメンタリーが目立ちますが、まだまだ私たちが知らない戦争秘話があるのでしょうね。(文)