趣味のバンド活動にまつわる、この夏に経験した出来事です。

 音楽仲間でもある居酒屋のオーナー・Nさんが主催するセッションの場に、アメリカ人男性・Aさんが飛び入りで参加。彼と面識のある、他のメンバーが誘ったようです。“音楽は世界共通の言葉”のごとく、私も一緒に即興演奏を楽しみました。

 演奏が終わり、打ち上げの席でNさんとAさんの間に座った私が通訳を務めることに。Nさんの言葉をいちいち(えーと、英語で何て言うんだっけ!?)と考えあぐね、四苦八苦しながらAさんに伝えます。すると彼は私にではなく、自分のスマホに向かって話し始め──そう、『VIVANT』でもおなじみの翻訳アプリ! デジタルツールを軽々と使いこなすシニア世代のAさんが、なんとカッコよく見えたことか。

 スマホの画面に日本語で表示されるAさんの言葉を、私が読み上げる形で会話が弾むうち(?)、彼が悠々自適の身で楽器を手に世界を旅して回っているという、羨ましすぎる人生を送っていることが判明(たぶん)。そこに、注文した砂肝が運ばれてきます。私が「chicken lever(鶏のレバー)……」とAさんに説明を始めると、Nさんが語気を強めて「砂肝 is stomach!」と遮るではありませんか。え、砂肝って肝臓じゃなくて胃? ていうか何でそこだけ英語? 一瞬、戸惑いましたが砂肝の部位は肝臓ではなく胃の一部である「砂嚢(さのう)」なんだそう。

 小さな焼き鳥店から起業して数十年、大物芸人も足繁く通う人気居酒屋に成長させたNさんの誇りを、ここぞの場面で発した英語(と日本語のミックス)に感じました。(純)