今、若い世代からも、また海外からも熱い注目を浴びている昭和ポップス。昨今では、音楽を聴く手段としてサブスクリプションサービス(以下「サブスク」)がメインで使われているが、必ずしも当時ヒットした楽曲だけが大量に再生されているわけではなく、配信を通して新たなヒットが生まれていることも少なくない。
そこで、本企画では1980年代をメインに活動した歌手・アイドルの『Spotify』(2023年4月時点で4億8900人超の月間アクティブユーザーを抱える、世界最大手の音楽ストリーミングサービス)における楽曲ごとの再生回数をランキング化。当時のCD売り上げランキングと比べながら過去・現在のヒット曲を見つめ、さらに、今後伸びそうな“未来のヒット曲”へとつながるような考察を、本人または昭和ポップス関係者への取材を交えながら進めていく。
今回も、チェッカーズのSpotifyでの人気曲を、彼らの活動初期に数多くの歌詞を提供した売野雅勇とともに振り返っていく。インタビュー第1弾は、彼らの楽曲の約3割が海外リスナー、それもアジアで人気であるということや、「星屑のステージ」「哀しくてジェラシー」に関する意外なエピソードについて語ってもらった。
(インタビュー第1弾→チェッカーズの昭和・平成・令和の人気1位曲は「ジュリアに傷心」、売野雅勇が“生みの苦しみ”明かす)
なお、Spotifyの人気曲の上位には、5位に1987年の「I Love you,SAYONARA」、6位に’90年の「夜明けのブレス」、8位に’89年の「Room」、9位に’88年の「素直にI’m Sorry」、そして10位に’92年の「Blue Moon Stone」と、セルフ・プロデュース時期のシングルがまんべんなくランクイン。しかも、いずれもシングルの売り上げよりも上位となっており、“記録より記憶”のヒットとなっていることがわかる。これらメンバーの自作曲については、また別の機会にメンバー自身に語ってもらう予定だ。
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売野の好みの歌詞は「あの娘とスキャンダル」より「スキャンダル魔都」
これに対し、売野雅勇が作詞を手がけた楽曲は1位「ジュリアに傷心」、2位「星屑のステージ」、4位「哀しくてジェラシー」に次いで、7位に’86年のシングル「Song for U.S.A.」がランクイン。作詞:売野雅勇×作曲:芹澤廣明による、旅立つ人へのロッカ・バラードで、芹澤は本作をチェッカーズへの最後の提供作に決めていたという。芹澤によると、本作は’85年のアルバム『毎日!!チェッカーズ』の1曲として制作していたようだ。このことを売野に尋ねると、
「確かに、アルバムの曲だと言われて書いたね。これでラストになるとは意識していなかったよ」
とのこと。アメリカへの憧れを捨て、
なお、この『毎日!!チェッカーズ』には、13位「あの娘とスキャンダル」の歌詞違いとして「スキャンダル魔都(ポリス)」が収録されている(こちらは27位にランクイン)。こちらは「あの娘とスキャンダル」よりも大人の男と女の恋の駆け引きが描かれており、売野自身も“こっちの歌詞のほうが、俺好みでカッコいい”と、改めて歌詞を読んだ感想を答えてくれた。
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「ティーンネイジ・ドリーマー」は「シングルになってもおかしくない出来」
そして、アルバム曲の最上位は19位の「Long Road」。これはさまざまなファンリクエストでも必ずと言ってよいほど1位になる楽曲で、ファンへの感謝をこめた藤井郁弥・尚之兄弟によるスローバラードだ。
また、アルバム曲の2番手としては、’84年のアルバム『もっと!チェッカーズ』のラストに収録された「ティーンネイジ・ドリーマー」が20位に。これはアルバム収録ながら、翌年のドラマ『うちの子にかぎって…パート2』(TBS系)の主題歌に起用されるほど関係者の間でも評判だった曲だ。今でもなお人気なのは、楽曲の魅力がリスナーにもちゃんと伝わっているということだろう。
「『ティーンネイジ・ドリーマー』は、先日、他の方からも“泣ける曲じゃないか!”と絶賛されていてうれしかったな。これは、シングルになってもおかしくない出来だよね。《夢を失くせば 俺たち哀しいただの不良だぜ~》というフレーズが心に響くんだ」
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「ブルー・パシフィック」は“芹澤メロディー”のいちばんいいところが炸裂!
さらに、カップリング部門を見ると、第35位に’85年の12インチ・シングルで両A面扱いだった『HEART OF RAINBOW/ブルー・パシフィック』のB面に収録されていた「ブルー・パシフィック」がランクイン。「HEART OF RAINBOW」にはグリコ・アーモンド・チョコレート、「ブルー・パシフィック」はTDKカセットテープと、それぞれCMタイアップがついていて、一部のベスト盤には「ブルー・パシフィック」のみ収録されていたり、ランキング形式の音楽番組『ザ・ベストテン』(TBS系)では「ブルー・パシフィック」がA面扱いでランクインしたりしていたので、この人気が抜きんでても不思議ではない。ただ、売野氏は、
「『ブルー・パシフィック』はもっともっと上位でもいいと思うね。これは、“芹澤メロディー”のいちばんいいところが炸裂しているんだ。自分がプロデュースしている(女性ユニットの)MAX LUXにもカバーさせようと思ったくらい。
これは、あおい輝彦の楽曲『あなただけを』や、尾瀬の夏を歌った中田喜直作曲の唱歌『
と、本作への思いを熱く語った。ちなみに、「HEART OF RAINBOW」のほうは、通常のシングルにはない大作を芹澤が作りたかったことから12インチ・シングルとなり、そのメイン曲ということでA面に収録されたようだ。
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自分の作品が発売されていたことをコンビニのBGMで偶然知った過去も
そして、「ブルー・パシフィック」を除いた純粋なカップリングで最上位なのが、51位の「ひとりじゃいられない」(A面は「神様ヘルプ!」)。これは以前の取材でも、売野自身が非常に思い入れのある作品だと語っていた。
「これは自分の本でも書いたけれど、コンビニで偶然聞いて、初めて発売されていることに気づいたんだ。本当の話だよ(笑)」
注釈すると、売野が立ち寄ったコンビニエンスストアで偶然この楽曲を耳にして、「ん? 俺の歌詞に似ているな……。こんな感じで作れば、売野雅勇っぽくなるんだ」と感心しつつ、あまりに自分の作品に似ているのでクレームを入れようかと思っていたらしい。そして、聞いている途中で「あれ? これは、フミヤの声だよな。もしかして……」と気づいて、芹澤から「この間、『神様ヘルプ!』用に書いてくれた歌詞をボツにして申し訳なかったので、別のメロディーをつけて同じレコードのB面に入れておきましたから」と電話をもらっていたことを思い出したという。
実際は、「神様ヘルプ!」用に書いたそのままの歌詞ではなく、「ひとりじゃいられない」のメロディーに合わせて芹澤が売野の歌詞をうまく調整したようだが、いずれにせよ、ノンタイアップのカップリング曲がこれほど上位とは、よほどファンに愛されているのだろう。
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『ギザギザハートの子守唄』用の歌詞が竹本孝之のシングル曲に使われていた!
「ひとりじゃいられない」の歌詞が、(本来それ用に作詞した)「神様ヘルプ!」のメロディーには合わないというくだりで思い出したのか、ここで売野から衝撃の発言が飛び出した。
「さっき、もともとあった『ギザギザハートの子守唄』のメロディーにあわせて、俺が書いた歌詞がボツになったことまでは話したよね……(インタビュー第1弾参照。採用されたのは康珍化さんの歌詞で、出だしの《ちっちゃな頃から悪ガキで 15で不良と呼ばれたよ》のインパクトが強烈だった)。実は、その続きがあるんだ。
宙に浮いてしまった自信作をどうしようか、日の目を見させたいなと考えに考えた結果、CBS・ソニー(
作曲は甲斐バンドの甲斐よしひろさん。
なんと! 「週末ララバイ」は、竹本孝之の通算9作目のシングルとして’84年3月にリリースされた楽曲で、出だしの歌詞 《海岸通りのこの店で/初めてお前と恋に落ち~》は、確かに「ギザギザハートの子守唄」のメロディーで最初から最後までそのまま歌える!!
ただ、「ギザギザ~」のアクの強いメロディーに乗せると、「週末~」の歌詞に流れる切ない感情の機微は消えいってしまいそうな気もする。その点、実際に発売された竹本の「週末ララバイ」は、歌詞と緩急のあるロッカ・バラードが見事にマッチしている。だからこそ、甲斐も気に入って歌い継いでいるのだろう。
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それにしてもチェッカーズは、売野がシングル曲中心に歌詞を手がけていた初期も、その後のメンバーによるセルフ・プロデュースの時期も、切なさと不良性が同居した作風が一貫している。「Song for U.S.A.」など、彼らのキャラクターに寄せた提供作もあっただろうが、基本的にはチェッカーズへのどの提供作も、売野雅勇ワールドのど真ん中にあるような作風だ。この2組が出逢ったのは、とても幸運であっただろうし、どこか運命さえも感じさせる。だからこそ、今なお、人々に愛され続けているのだろう。
(取材・文/人と音楽をつなげたい音楽マーケッター・臼井孝)
【PROFILE】
売野雅勇(うりの・まさお) ◎上智大学文学部英文科卒業。 コピーライター、ファッション誌編集長を経て、1981年、ラッツ&スター『星屑のダンスホール』などを書き作詞家として活動を始める。 1982年、中森明菜『少女A』のヒットにより作詞活動に専念。以降はチェッカーズや河合奈保子、近藤真彦、シブがき隊、荻野目洋子、菊池桃子に数多くの作品を提供し、’80年代アイドルブームの一翼を担う。’90年代は中西圭三、矢沢永吉、坂本龍一、中谷美紀らともヒット曲を輩出。近年は、さかいゆう、山内惠介、藤あや子など幅広い歌手の作詞も手がけている。
“売野雅勇 作詞活動40周年記念 オフィシャル・プロジェクト MIND CIRCUS SPECIAL SHOW「それでも、世界は、美しい」”開催!
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・日時:2023年7月15日(土) 16時開場/17時開演
・会場:東京国際フォーラム ホールA
・料金:全席指定 税込15000円
・音楽監督:船山基紀
・出演:麻倉未稀 / 稲垣潤一 / 荻野目洋子 / 近藤房之助 / さかいゆう / 杉山清貴 / 東京パフォーマンスドール(木原さとみ 他) / 中島愛 / 中西圭三 / 中村雅俊 / Beverly / 藤井尚之 / 藤井フミヤ / MAX LUX / 望月琉叶 / 森口博子 / 山内惠介 / 山本達彦 / 横山剣 ほか(50音順。都合により出演者が変更になる場合あり)
※演目詳細やチケット情報は特設サイトへ→https://masaourino40.com/
◎売野雅勇 公式Facebook→Facebook.com/urinomasao
◎売野雅勇 公式Twitter→https://twitter.com/urino222