「育ちがいいね」「リモートで羨ましい」相手を褒めるつもりで使っているその言い回し。実はもうNGなんです。2021年を振り返り使って、NGワードを独自リサーチ!
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この言葉は死語ですよ!
「相手を褒めるつもりで“リモートで羨ましい”と言ったんです。そうしたら相手の表情が曇って。私、何か悪いこと言いました?」
と、SNSに投稿したAさん。彼女のように悪気なく言った言葉が実は「もうNG用語になっている」とはネットの誹謗(ひぼう)中傷などに詳しいジャーナリストの渋井哲也さん。
「コロナ禍で失業や社会から排除されることに危機感を覚えている人が増加しています。そんな中で、褒め言葉だとしても安易に分断を感じさせる言葉は使ってはいけない傾向にあるなと感じます」
2018年からSNSを中心に「流行禁句大賞」を開催している一般社団法人21世紀学び研究所は、「今、禁句は日々アップデートしていっています。気づかないで使っていると人を不快にさせてしまう。ですから毎年言いたくない、言われたくない言い回しをご紹介させていただいています」と大賞の趣旨を説明している。
・医療従事者の子どもは保育園通わせないで
・俺は家事も育児もやっているほう
・今日も家にいるの?
・介護士は休むな
・子ども部屋おじさんヤバい
・ごめんしばらく帰省しないで
・コロナにかかってごめんなさい
・コロナにつき外国人お断り
・コロナはただの風邪
・女性はいくらでも嘘をつける
・スポーツ選手は政治的発言をするな
・他県ナンバープレート来んな
・なんで鬼滅見てないの?(★大賞)
・日本には人種差別などない
・誹謗中傷されるほうも悪い
・夜の街は全店営業を停止しろ
・リモート授業でラッキーだね
・リモートワークはサボるから禁止
・レズやゲイが法律で守られたら足立区は滅びる
・若者がコロナを広げている
上記は2020年を振り返り、あらゆる人の視点に立って来年に持ち越したくない言葉を選び、話し合うことを目的としてスタートしたという「流行禁句大賞2020」にノミネートされた言葉。1000件以上の言葉の中から4名の選考委員によって20語に絞られた。2020年の大賞は13番の「なんで鬼滅見てないの?」。
今年は開催がないというので、編集部で5000人を対象にアンケートを実施。「あなたが言われたくない、言いたくないNGな言い回しとは?」
アンケートの結果は──
1位『育ちがいいね』988票
「馬の品種みたいで下品」(20代女性)、「育ちを話題にする人の育ちが悪いなと感じます」(40代女性)、「お育ちが、って今は令和ですよ(笑)」(30代男性)。「会社で“育ちがいい”は差別用語になるから使用不可と教えられました」(20代女性)
圧倒的な票を集めたのは、ネットニュースにもよく上るこの言葉。昨年2月に発行された書籍『「育ちがいい人」だけが知っていること』は40万部以上を売り上げる一方で、作者がテレビ番組に出演し炎上したことも。この言葉の何が人々を不快にさせるのか。
前出の渋井さんは、
「池袋の自動車事故を起こした“上級国民”、疑惑の人物と結婚した元皇室女性など“育ちがいい”人に対する不信感なども影響しているんでしょう。家柄や学歴がよくても、そぐわない行動を起こす人が目立つ傾向にあります。それとは別の理由で、やはり“私とあなたは違う”という分断のように感じてしまう人も多いのでは。それが1位につながったのだと思います」
と分析する。続けて、
「これ、褒め言葉とは限らないんですよ。育ちがいいね=何もできないけど育ち(だけは)がいいね、という嫌みとしても使われているんです」
取り扱い注意な言葉なのは間違いなさそう。
2位『ワクチン打った?』763票
「ハラスメント以外の何ものでもない」(30代女性)、「ワクチンの話は打つのも打たないのも人前で話すべきではない」(50代男性)、「これを聞いてくる人は信用しない」(40代男性)
まさに今年ならではの話題。コロナワクチンだけではなく、インフルワクチンや「ワクチン打った」報告も同様だという。ワクチンの話は言わない、聞かないが鉄則!
「アンケートを夏にとっていたらこれは1位だったでしょうね。ワクチンの供給が追いついてきて(口にする人が)減っているように感じます。しかし、ワクチン陰謀論を話題にしているSNSのコミュニティーサロン・クラブハウスではいまだに人気です。通常、50人入れば人気といわれるのですが、陰謀論には200人は入っていますから。ワクチンの話は匿名ならば話題にしたい、という人が多いのかもしれません」(渋井さん)
3位『リモートで羨ましい』643票
「リモートしていることが楽していると思われているみたいで言ってほしくない」(30代女性)、「家のこともしなきゃいけないし通勤のほうが楽。休んでるみたいに思われて腹立たしい」(30代女性)、「妻や子どもに気を使って家で仕事するほうがつらいのに」(40代男性)
楽していると思われるなんてたまらない!
「ニュージーランドの調査ではリモート作業のほうが効率が上がるというデータがあるのですが、日本は逆に効率が下がるというデータが出ています。それは日本の住宅がリモートに向いてないからです。そのための個室もなければ、Wi-Fi環境も安定していない、通勤をしないという利点しかないというのが実情。イメージだけでリモート羨(うらや)ましいというのは恥ずかしいですね」(渋井さん)
4位『ググって』621票
「ネットにある情報がいいかげんなものばかりなので、ググるのは逆に危険という認識です(笑)」(20代男性)、「ググって正解があると思っているのがおかしい」(20代女性)
インターネット上にある情報にあまりにも嘘が多いことが影響しているのだろうか。
「例えば上司が言っている場合は、“ググって”と自分が説明できないから調べろというふうに聞こえる。しかも上から目線っていう。それに最近はググるという単語自体が死語に近いです」と渋井さん。
ググレカスという言葉も流行(はや)ったが、今ではググったらカス!?
5位『~しか勝たん』529票
「これ言われると会話する気なくなる」(20代女性)、「自分の推しに対して言っているのでしょうが、ほかのメンバーが否定されているように感じて不快」(10代女性)。
推しの対象に対して使われる「~しか勝たん」。例えば嵐の松本潤が好きなら「松潤しか勝たん」などと表現される。
「好きなものしか見ないというのは世界が狭くなっている。SNSで世界が広がっているように見えて好きなものしか置かない・聞かない・見ないという姿勢を不快に感じる人も多いのでしょう」(渋井さん)
6位『フェミサイド』411票
「男とか女とか言ってる時代じゃない」(20代女性)、「女性を執拗(しつよう)に強調することが逆に女性を貶(おとし)めていると感じてしまう」(30代男性)。
フェミサイドとは性別を理由に女性または少女を標的とした殺人のこと。8月に小田急線の電車内で若い女性が面識のない男に刺される事件が起き、これをフェミサイドとするかでSNS上では論争に。
「韓国では20代男性の6割が“女性が憎い”と答えるなどフェミサイドが深刻な問題になっていますが、日本では女性を憎いと答える男性は2割にも満たない。女性がターゲットになったということだけでフェミサイドと叫ぶのはどうかという人たちがいるのも確かです」(渋井さん)
7位『サレ妻・サレ夫』214票
「キャッチーな言葉でくくるのやめてほしい」(40代女性)、「サレた側が悪いと言いやすくなる名前をつけないでください」(30代男性)、「するほうの問題であって、されたほうに焦点を当てないでいい」(50代女性)
不倫された夫と妻を描いた漫画『サレタガワのブルー』。夏にはドラマ化もされすっかりサレ妻・サレ夫というワードが浸透していったが不快に思う人がいるということを念頭に入れておきたい。
8位『私、ゲイの友達いるから偏見ないよ』201票
「これって実はすごく差別的だということをわかっているの?」(40代性別無回答)、「自サバ女同様信頼できない」(30代女性)、「自分から発信する必要ない」(40代男性)
LGBTQなどセクシュアルマイノリティーについて、認知は上がってきている一方で、知識不足の偏見も多い。ドラァグクイーンのエスムラルダさんは、
「個人的には、目くじらを立てるつもりはありませんが(笑)、不快に思う人たちは、わざわざそれを発信することが嫌だなと感じるのかも。あえて“偏見がない”と言う人より、何も言わずに受け止める人のほうが、“わかってるな”とは思います。もちろん、“キモっ”とか言われるより偏見ないよと気を使ってくれるほうがはるかにいいですけどね(笑)」
あえて言わないということも大事なのかも。
9位『ひよってるやついる?』64票
「中学生の弟がこればっかり言ってうざいから」(10代女性)、「アニメや漫画を見せていないのに学校で覚えてきてしまう」(40代女性)、「上司が言ってくるんですがどう返すのが正解かわからない」(30代男性)
この夏映画化もされた『東京卍リベンジャーズ』の人気キャラ、佐野万次郎の名ゼリフが異例のランクイン。TikTok(ティックトック)などでもこのセリフが拡散され、小中高生の間で大ブームに。一方で漫画やアニメを見ていない人たちはこれを言われて困惑しているよう。ただこのブーム、若者の間ではまだまだ続きそう。
10位『ステイホーム』52票
「この言葉はもう聞きたくない」(40代女性)、「いまだに外食を嫌悪するママ友がいて嫌になる」(40代女性)
今年前半だったらもっと上位だったであろう「ステイホーム」。票数が少ないのはコロナが収まってきた表れ?
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これまでの順位を見て、渋井哲也さんは、
「キーワードとしてやはり《分断》を感じますね。分断されることに嫌悪感を持っている印象です。例えば、1位の育ち、2位のリモート、ともに言うほうと言われるほうが分断されていますよね。私とあなたは違うという。閉塞感がある世の中なので、こういった分断を覚えるワードはNGになっているのでしょう」
と分析。
今年も残すところあと2か月。コロナの収束とともに飲食の機会なども復活しつつある。うっかりNGな言い回しをしないよう注意したい!