なぜこんな長時間労働に陥ってしまったのか。両親ははじめ理解できなかったが、しだいにわかってきたのはNHKの労働時間管理への意識の低さだった。 未和さんが亡くなった後、守さんは異常とも言える勤務状況についてNHKに問いただしたことがある。

 当時のNHKの管理職は「記者は時間管理ではなく、それぞれの裁量で働く個人事業主のようなものです」と説明。守さんはそれを聞き、「そんな話は通用しない」と怒りがこみ上げたという。

「管理職が“個人事業主だから細かい管理はしない”という意識だったために、部下の日々の残業時間のチェックやコントロールは行われず、結果的にこれほどの長時間労働を強いる結果につながったのではないでしょうか。管理職の意識が違っていれば、未和は死なずにすんだはずです」

 労働者の安全や健康を守る義務が会社にあることは、法律に書かれている。NHKは組織として未和さんにハードな選挙取材を任せたのだから、その働きぶりをきちんと把握し、過労が予想されれば本人がやる気でも取材にストップをかける、必要ならば取材班の人手を増やす、などの対処を検討する必要があったのだ。

 そうしたことに目を配るべき管理職が遺族に「個人事業主のようなもの」と言ってしまうような状況では目も当てられない。「個人事業主」発言の有無についてわたしはNHKに問い合わせてみた。広報担当者からの回答は「ご指摘の点については確認できませんでした」という内容だった。

職場内で孤立も?

 もうひとつ、両親がひっかかったのは職場の人間関係とチームワークだ。 未和さんが加わっていた取材班には同僚があと3人いたが、すべて男性で、年齢も未和さんより上だった。守さんの以下の指摘に、当時の同僚たちはどう答えるだろうか。

2013年7月に亡くなったNHKの女性記者、佐戸未和さん=遺族提供

「普通の会社の組織では、若い女性社員が連日連夜の深夜残業、土日出勤という状態がずっと続けば、誰かがアラートを出して助け舟を出すなり、外部からサポートを呼ぶなり、改善に向けて協力するはずです。チームのみなさんは横目で未和を眺めながら、『個人事業主』を決め込んでいたのでしょうか。自己管理できなかった未和が悪かったのでしょうか」

 亡くなって間もない2013年7月30日、NHKは未和さんに「報道局長特賞」を与えた。賞状は、未和さんの〈入念な準備と取材指揮が正確・迅速な当確につながった〉と評価した。だが、母の恵美子さんはこの賞状を今も正視できないでいる。

「こんなものはちっとも欲しくありません。選挙の当確を一刻一秒早く打ち出すために娘が命を落としたかと思うと、こみ上げてくる怒りを抑えることができません」