稲葉さんらは行くあてのなくなった人やホームレスなどを心配し、夜回り活動も実施している

 しかし、この制度には問題がある。申請者は「求職活動をして、正社員を目指す」ことが前提となっているのだ。新型コロナの影響で求職活動自体、困難になっているため、実際の運用は柔軟になっているようだが、この点を強調されるとお笑い芸人や音楽家、役者などは、その職業を辞めて正社員を目指さないといけない、ということになってしまう。

 いずれにしても、まずは「住所を死守することが大事だ」と、稲葉さんは訴える。住宅がなくなると、ネットカフェや路上で生活せざるを得ない人が多くなる。しかし、住んでいたアパートから撤去したことが自治体に分かると、住民票を消されてしまうのだという。

「履歴書に記載する住所欄を埋められなくなると、就職活動をする際にかなり不利になるため、やはり失うことは避けるべきです」(稲葉さん)

 よって、前述の2つの対策法を使うことができない場合には遠慮することなく、生活保護を検討しよう。

弱者につけ込む“貧困ビジネス”の実態

 “貧困ビジネス”。現在26歳の私が、小学生のころからドキュメンタリー番組などで目にしてきた言葉だ。昔からある問題にもかかわらず、今でも根深く残っている。「できる限り住所は死守を」と稲葉さんは言うものの、現在、都内には4千人を超える“ネットカフェ難民”がいるという。家を持たず、ネットカフェに寝泊まりして生活していたものの、緊急事態宣言に基づき休業要請が出たことから、ネットカフェが相次いで店じまいしてしまったため、行き場を失い、ひどく苦労している。

 実際、稲葉さんのもとには3月末から「ネットカフェから追い出されてしまった。行くところがない」といった相談が60件以上きている。稲葉さんらはこの現状をふまえ、いち早く行政に働きかけた。

 4月3日に東京都に対して要望書を提出したところ、都は4月6日の記者会見で「住まいを失った人への一時住宅として提供するためにホテルなどを借り上げ、12億円の予算を計上した」という旨を発表。現在、2000室の受け入れ体制を整えている。しかし、他県から人が押し寄せることを懸念してか「6か月以上、東京都で生活していたと証明する」ことを強く求めているという。

 6か月前のネットカフェの領収書や、献血・治療の証明書などがある方は、新宿にある『TOKYOチャレンジネット・東京都』に足を運んでみるといい。ビジネスホテルを案内してもらえるそうだ。6か月未満の人は、各役所の福祉課に相談に行こう。

 だが、なかには民間の無料低額宿泊所に案内されるケースもあるという。生活保護は東京都の場合、1人あたり月に約12〜13万円ほど受けられる。しかし、ひどい場合、施設側が宿泊費・食事代として10万円以上も搾取し、本人には1万円ほどしか渡さない事例もある。食事も貧しく、カップラーメンが1つということや、相部屋を強いられることも。​

「狭い部屋に押し込まれ、感染リスクが高くて不安だ」と稲葉さんに相談する人もいるという。“3密”の空間で感染の恐れがあるから、とネットカフェが自粛しているのに、余計に感染の危険性が高まってしまっては本末転倒だ。本人の意思で「安全面が不安だからビジネスホテルにしてください」と申し入れることもできるので、利用する人は注意深く説明を聞いて欲しい。