そのうえ、場合によっては風評被害による打撃も大きいだろう。通院患者に新型コロナ感染が発覚した病院のなかには、近所で噂になって一時休業に追い込まれ、営業再開後も、来院者数がほとんどゼロになってしまった事例もあると耳にした。
宿泊施設に赴いても状況はさらに厳しい
では、オンライン診療を始めるのはどうか。以前から必要性が議論されていたのにもかかわらず、医師会が強く反対していたことを私は忘れないが、今回の新型コロナ感染拡大に乗じて、オンライン診療の規制はかなり緩和された。しかし、そう簡単な問題ではないという。
「オンラインですと、対面と同じような診療をしても報酬が6掛けほどになることもあり、さらに、訴訟のリスクも高いのです。仮にですが、もし患者さんがわざと症状を隠すということがあって診断を誤ったとしても、現行の法律上、医師側が責任を負うしかないため、なかなか踏み切れないところがあります」
確実に花粉症で悩む人に必要な薬を出すということならできるが、症状が頭痛だけでも脳梗塞かもしれないし、胸が痛ければ心筋梗塞かもしれないし、呼吸に問題があれば、新型コロナかもしれない。「聴診器を当てればわかることすらも気づけない可能性がある」と懸念を示す。
今後、宿泊施設における軽症者らの受け入れが進んだ場合、医者や看護師たちは現場に常駐となる予定で、複数の医師が輪番制で業務にあたる。日当も出るそうで、待遇によってはこちらに参加したほうがいいのでは? とも思ったが……。
「輪番制に対して公的な日当は出るようですが、もし自分の医療機関を休診して従事した場合でも、開業医らが固定費を充足させるのに十分な金額は望めないと思います。従業員への給料のほか賃料や医療関係の物品代、開業時のリース代なども支払わねばならないわけですから、現実は厳しい。これについては本当に、新型コロナと戦う医師たちの正義感や公共心から参加することに意義を見出す事業になっています」
宿泊施設へ出向いて働くという選択は、かなり苦しいことがわかった。今のところ、施設に赴くのは希望者のみであるから無理に行く必要はない。だが、参加しても金銭的に辛くなり、自分や家族への感染リスクもあるなかで、これから招集がかかったとして、行けるだろうか。呼び出しは“赤紙”を意味することになるかもしれない。
現在、4日間にわたり37.5度以上の発熱がないと一般の人は検査も受けられない状態で、すでに国民の不満も高まっている。しかし、前述したように、検査を増やすことができても、医療従事者数を増やすことができるわけではない。医師が安心して働ける環境がなければ、なおさら難しいだろう。担当する医師や公務員らが過労死ラインを超えつつも、働き続けているという報道もなされている。
心苦しくはあるが、有事だから使命感で頑張ってほしい、と思う部分はある。しかし、その使命感で走れるのはあと何か月だろうか。命を危険にさらし、お金もない状態なのに、使命感や責任感だけで、あなたは残業をたくさんできるか。私はできない。改めて、医療従事者の方々に感謝の気持ちを述べるとともに、マスクや防護服など物品だけではなく、病院の経営面にも目を向けるべきだと感じた。
経済的援助がないと、地域医療の力が大きく減退する。また、開業医には高齢の医師も多く、感染のリスクがより高い。賃料の一部負担や、処遇面などの補填が必要ではないか。これまで患者に寄り添ってきた地域の病院が、来院者数を確保できず、診療単価をあげることももちろん許されない、病院で別の新規ビジネスも始められないなかで、どんどん潰れていく──。苦境に立たされる医師たちの声に、どうか耳を傾けてほしい。
(取材・文/お笑いジャーナリスト・たかまつなな)
※この記事は、私たかまつなな個人の発信です。所属する組織・勤務先とは一切関係ありません。問い合わせは、下記アドレスまでお願いします(infotaka7@gmail.com)。
【PROFILE】
桑井太郎(くわい・たろう) ◎『あおい内科』院長。杏林大学医学部卒。日本内科学会認定内科医、日本医師会認定産業医、労働衛生コンサルタント。地域医療に貢献すべく、内視鏡検査、生活習慣病の治療などを中心に幅広い分野の診療に対応。
【INFORMATION】
本件については、Youtube『たかまつななチャンネル』内の動画『【医療崩壊最悪のシナリオ】地域の病院が潰れる?!』でも話しています。
リンクURL→https://youtu.be/cYzL1OFKqR4