'80年代女性アイドルの頂点の座に君臨し、今も昭和を振り返る番組などでは、松田聖子とともに特集が組まれることの多い中森明菜。彼女はシングル21作で週間チャート1位を獲得したことに加え、1985年に発売した『ミ・アモーレ』と'86年の『DESIRE -情熱-』で、女性歌手で初めて日本レコード大賞を2年連続で受賞。'78年~'89年に放
上記の功績からも、明菜は名実ともに日本を代表する歌姫のひとりと言え、彼女の楽曲を一度も耳にしたことがないという人は少ないはずだ。しかし、その知名度に対し、彼女のシングルB面曲が語られることは意外にも多くない。例えば、同時代にトップアイドルとして明菜と双璧をなしていた聖子は、音楽番組『レッツゴーヤング』のワンコーナーソングだった『Eighteen』、卒業ソングの名曲と語り継がれる『制服』、『サントリーCANビール』CMソングの『SWEET MEMORIES』、ドラマ『青が散る』主題歌の『蒼いフォトグラフ』など、(タイアップや両A面シングルの影響もあるだろうが)コアなファン以外にも人気のB面曲が大量にあり、明菜との違いは歴然としている。
しかし明菜のほうも、シングルB面が手抜きというワケでは決してなく、むしろA面にしてもおかしくないような名曲が詰まっている。現に、'82年~'91年に発売された26枚のシングル(12インチを除く)のうち、A面とB面の作詞家×作曲家が完全に一致しているのは'84年の『北ウイング』(康珍化×林哲司)1作のみで、大半がどちらをA面にするか競うかのように作られており「こちらがA面でもよかったのでは?」というファンの意見も少なくない。
そこで、今回は当時を知らない方々にも深く知ってもらう手がかりとして、数ある名曲の中から4曲をピックアップしてみた。
低音のカッコよさ、言葉の説得力の高さ
まず、'82年に発売された1stシングル『スローモーション』のB面『条件反射』(作詞:中里綴/作曲:三室のぼる/編曲:船山基紀)を挙げたい。本作は、新たな恋の予感をしっとりと歌いあげるA面と異なり《追いかけるほど好きじゃないわ》《どっちつかずで苛立つばかり》など挑発的な歌詞が印象的。オリコンや『ザ・ベストテン』はじめ各種ランキングで初のTOP10入りとなった2ndシングル『少女A』にも通じるツッパリ歌謡風で、中低音の歌声にゾクゾクさせられる。
明菜本人は『少女A』よりも『スローモーション』を好んでいたと『ザ・ベストテン』で公表したのは有名な話だが、そもそも山口百恵の『夢先案内人』を『スター誕生!』で披露してデビューを勝ち取っただけあって、明菜は低くつぶやくような歌い方が得意だったことが、この『条件反射』からも改めてよく分かる。明菜のスタッフも“しっとり系”と“ツッパリ系”の双方で彼女の
次に、そこから約3年経った12作目のシングル『SAND BEIGE -砂漠へ-』のB面『椿姫ジュリアーナ』(作詞:松本一起/作曲:佐藤隆/編曲:井上鑑)。もの悲しい笛の音から始まるエキゾチック路線の歌謡曲で、《舞台が済むと売れ残りの ワインの瓶を売り歩く》《笑いながら泣いて 歌い踊る 私は踊り子 愛もない》という薄幸な女性を、わずか19歳にて見事に演じ切っている。それ以前にもつぶやく、またはささやく感じで歌唱するバラードをシングルのB面で取りあげていたが、本作から言葉の説得力が格段に増している。
'85年の明菜は、7作目のアルバム『BITTER AND SWEET』で井上陽水作詞・作曲の『飾りじゃないのよ涙は』をはじめ角松敏生、ASKA、EPO、吉田美奈子など個性的なソングライター提供の楽曲を次々と“明菜流”に歌えるようになり、アイドルというよりもアーティスト色を一気に強めていった。