『DESIRE』を歌唱する中森明菜

B面曲もテレビ番組でよく歌われた

 そして、その翌年に発売となる14作目のシングル『DESIRE -情熱-』のB面『LA BOHEME』(作詞:湯川れい子/作曲:都志見隆/編曲:椎名和夫)は、もっとも聞き捨てならない(?)B面曲と言えよう。『DESIRE』は当初B面になる予定だったが、明菜が「着物風の衣装で歌いたい」と強く望んだことでA面となり、洋風にアレンジされた着物×前下がりボブのウィッグという出で立ちと歌自体のインパクトもあって、後年にも残る歴史的なヒットとなった。20歳という若さでその時代を見抜くセンスには、驚かされるばかりだ。

 しかし、B面にまわった『LA BOHEME』も、ギターがうねりまくるハードロック調のなか、不器用にしか人を愛せない“さまよい人”を熱唱パフォーマンスで魅せる明菜が実に見事。4分間通して聴けば、誰もが「これがB面なの!?」と、驚くのではないだろうか。実際、本作は彼女のコンサートでも、上述の『DESIRE』や『十戒(1984)』などのアッパーな大ヒット曲と並べて歌われることが多かったし、'19年におけるカラオケの彼女の人気曲ランキング(JOYSOUND調べ)でも、シングルB面の中でダントツの、29位となっている

 余談だが、筆者には今から30年ほど前、明け方の電車で酔いつぶれた女性が「♪貴方も同じ ラ・ボエーム~」と、泣きながらサビの最後部分を口ずさんでいた記憶が強烈に残っている。彼女も哀しい恋をしていたのだろうか……。

 ラストの曲を紹介する前に、このころから『薔薇一夜』(シングル20作目『AL-MAUJ』B面)や『BILITIS』(シングル22作目『I MISSED THE “SHOCK”』B面)など、音楽番組で何度も披露されるB面曲が多くなったことにも触れておきたい。この流れからも「A面B面、どちらの曲も好きになってほしい」という明菜の強い意向が読みとれる。喪失感の迷宮をさまようような『I MISSED THE “SHOCK”』が11週間にわたってオリコンTOP20入りと、その前後の楽曲よりもロングヒットとなったのは、ノリのよいテンポでビブラートを利かせる『BILITIS』のテレビ歌唱効果も存分にあったのだろう。

 では、最後の1曲に話を移そう。'91年のシングル『二人静 -「天河伝説殺人事件」より』のB面曲『忘れて…』(作詞:中森明菜/作曲:羽佐間健二/編曲:小野沢篤)も、明菜を語るうえでは避けて通れない(この当時アナログレコードは発売されていなかったので、正確にはB面ではなくカップリング曲である)。3分弱の短いバラードだが《鏡に映る 私の肩には 彼との思い出 消えかかっていた》という自作詞と切ない歌声に、どうしても彼女のプライベートを重ねて聴いてしまう人も多いことだろう

 なお、ユーチューブでも無料で公開されている'91年のライブ『~夢~'91 AKINA NAKAMORI Special Live』のラスト(74分~)では、本作の歌詞をアレンジして

《いろんなこと 心配かけて 心から許してほしい (中略) 忘れないで 忘れないで みんなへのこの想い 変わらない》

 と、涙ながらに言葉を噛み締めながら歌っている。ステージ上やレコーディングでは完璧主義でありながら、ファンを大切にしたい、という想いもひしひしと伝わってきて、これも彼女が今もなお愛され続ける大きな理由のひとつだろう。コンサートでも、クールに歌い切った後、MCでは『Dr.スランプ』の主人公・アラレちゃんのような幼い声を作って、ファンの言葉に耳を傾けながら延々と喋っていたのも懐かしい。

 以上、初期10年間のシングルB面の中から、いくつか注目作を挙げてみたが、それ以降のオリジナルアルバムも傑作ぞろいなので、また機会があればご紹介してみたい。明菜の音楽に触れてみると、彼女のように「全身全霊で自分を表現したい」という若手の女性歌手がもっと現れる世の中になってほしいなと、心から願ってしまう。

(文/音楽マーケッター・臼井孝)