村本さんは、まるでジャーナリストかのように、あちこちを飛び回り、現場でたくさんの人と会っている。この活動には、自腹を切っているという。
「例えば、福島に行ったらラーメンを食べて、そのついでに原発とかにも行って、原発のある町に友達ができて。そいつらから原発の話を聞くと面白いのよ。浪江や大熊、双葉とか原発事故のあったところでは、漁師さんたちは処理水を海に流すことに反対していると。でも、会津の奥のほうにある屋台村に行ってご飯を食べたら、“もう処理水を流してもいいんじゃない”って言っている人もいる。
同じ福島でもいろいろな意見があるということを、その人たちから聞いて初めて感じるわけであって、それによって心が動いてネタができる。だから、ああだこうだと人としゃべるわけよ。一緒にお酒を飲んで、同じように泣いて、怒って。その帰りの電車のなかでガーッっと書いて作ったネタっていうのは、果てしなくお客さんの心をえぐる。頭じゃなくて、心で漫才をやりたいから、自分の心を揺さぶるために、人と会うことに時間を捧げる。そういうことだと思う」
アメリカの芸人と勝負して勝ちたい
「アメリカのコメディーのほうがカッコいい」と感じたあと、スタンダップコメディーの動画を見て、アメリカに短期で留学し、コメディークラブでネタも披露した村本さん。アメリカと日本のお笑いとでは、何が違うのか。
「日本の漫才って、ツッコミとボケとか、お互いにキャラを演じあっていて、ほぼコントなんですよ。本音や意見を出さないし、そのほうがいいとされている。社会問題を語るよりも芸能人をいじっているほうが、誰からも攻撃されないから。原発や沖縄の基地を叩いたら、すごくクレームがくるし、ネタにされて浮くから、みんな触れたがらない。でも、アメリカの知り合いに聞いたら、向こうでは“むしろ社会的な問題に触れない芸人のほうが、ネタにされるのが当たり前だよ”と。
それと、日本では芸能ニュースのことを“時事ネタ”って言っている時点で、すごく頭が悪い感じがして。世の中にはもっと重要な問題があって、アメリカでは、社会に根づいたお笑いをやっている。日本だけらしいですよ、ネットのトップニュースが芸能ばかりなのは。あれがもうダメなの、俺は。
アメリカと日本のお笑いを考えたときに、向こうの芸人は実体験をもとに話をして現実を突きつけるけれども、日本の芸人は現実から逃がすというか、何も考えずに楽しませるテーマパーク的な感じがある。でも本当は、テーマパークの外では爆弾が落ちてきたり、たくさんの人が死んだり、苦しい思いをしていたりするわけ。社会学者の宮台真司さんが言っていたけど、“ニュースを伝えるには、正しいだけじゃだめ。正しくて楽しくないとだめなんだ”って。だから、(アメリカのように)真実に面白さを加えることで人の心に入っていくっていうのが、お笑いのすごいところなのかなと」
村本さんのことを“売れないからアメリカへ逃げるんだ”などと揶揄(やゆ)する人もいる。しかし、今もよしもとの劇場では出番がたくさんあって笑いをとっており、日本を離れる必要がないようにも見える。だが、彼にはどうしてもアメリカに行きたい理由があるという。
「自分の周りの環境が芸人を作ると思うし、面白さって伝染するんですよ。面白いやつといるやつは面白いし、面白くない仲間といると、面白くないんですよね。アメリカに行って感じたのは、“地球温暖化に対してここまでバカバカしく語れるんだ”とか、黒人の芸人が“どうして黒いバンドエイドがないんだ、俺たちはケガしちゃいけねえのか”と怒っていたのが最高に面白くて。そういうパンチラインを連発していて、まじで“こいつら最高だな”と。
さらに言うと、お笑い芸人はホワイトハウスの晩餐会に招待されて、そこでケネディやクリントン、トランプなど歴代の大統領のことを思いっきり“ディスる”んですよ。ブッシュ元大統領に対しても、イラク戦争についてボロカスに言うし。大統領が目の前にいるんですよ。それでも、招かれた芸人は真実を言ってブワーっと笑わせる。しかも、そこで芸人と自分の考えが違ったとしても、あきれ返ってみんな笑うわけ。
ところが、日本では『桜を見る会』とかでお互いに利用し合ってるだけじゃないですか。政治家は“こんなに芸能人を呼べるんだぞ”、芸能人は“私たちはすごい場所に呼ばれてますよ”と、お互いブログに一生懸命書いて、宣伝活動。ブルジョワ気取りのばかどもが、ああいうふうにやってるわけですよ。俺はね、“お笑い芸人、何しにあそこに行ってるの。その場であいつらディスって笑い取ってくれよ。めちゃくちゃ面白いこと、いっぱいあるのに”って。だから、俺はお笑いの本場に行ってみたい」
いつも“衝動で生きている”という村本さん。今の目標は「本場(アメリカ)の芸人とガチで勝負して勝ちたい」という。日本でまた村本さんの舞台を見られる日があるのか。渡米前に、ぜひ村本さんの生のお笑いを見て、本音を聞きたい。
(取材・文/お笑いジャーナリスト・たかまつなな)
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