気がつけば、「志村流」!

 この志村さんのブランディング力。考えてみると、私は「初対面の編集者さんとの打ち合わせのとき」に実践していたことに気がつきました。

第1に、私は「疲れている人がほっとできるような本」を書くのが得意で、「原稿を書くのが無茶苦茶に速い」という、キャラクターの「わかりやすさ」
第2に、相手が自分よりも20歳年下であっても、丁寧で腰が低い「親しみやすさ」
第3に、お得意のひと言、「編集者が日本一ラクできる著者です!」という「忘れられないフレーズ」

 これらを3点セットにして、編集者さんとお話をするようにしています。

 さらに、私は「特定のノウハウ」を売りにしている著者ではありません。言わば、世の中の森羅万象をネタにして原稿を書いています。つまり、永遠に尽きない「豊富なネタ」のなかから「小出し」にして本を書いているようなものなのです。

 まさに、気がつけば「志村流でお仕事をさせていただいていた」というわけです。

 もちろん、この「スタンダード・ナンバーの条件」は、一般の会社員でも応用できます。私なりに考えてみると……。

第1に、「提案書を作らせたら社内でナンバー1」「根回しの天才」「お客様の懐(ふところ)に入るのがうまい」など、仕事で得意とすることが「わかりやすい」
第2に、「なんでも、いつでも相談できる」「仕事を頼みやすい」という「親しみやすさ」
第3に、「期待は裏切りません」「すべてお任せください」など「忘れられないフレーズ」

 わかりやすい「強み」があって、気さくで、印象的な言葉を使えるバランスのよい人は、社内でも自然と注目され、よい仕事がまわってくるのではないかと思います。
社内での、「自分のスタンダード化」ですね。

 それにしても、志村さんが、実に用意周到に計算して、自分のコントを、長年愛され続けられるよう「スタンダード化」させることに成功していたことに驚かされます。

 改めて、惜しい方を亡くしたと、残念でなりません。

(文/西沢泰生)
《※参考:『志村流』志村けん著(三笠書房)》


【PROFILE】
にしざわ・やすお ◎作家・ライター・出版プロデューサー。子どものころからの読書好き。「アタック25」「クイズタイムショック」などのクイズ番組に出演し優勝。「第10回アメリカ横断ウルトラクイズ」ではニューヨークまで進み準優勝を果たす。就職後は、約20年間、社内報の編集を担当。その間、社長秘書も兼任。現在は作家として独立。主な著書:『壁を越えられないときに教えてくれる一流の人のすごい考え方』(アスコム)/『夜、眠る前に読むと心が「ほっ」とする50の物語』『伝説のクイズ王も驚いた予想を超えてくる雑学の本』(三笠書房)/『朝礼・スピーチ・雑談 そのまま使える話のネタ100』(かんき出版)/『コーヒーと楽しむ 心が「ホッと」温まる50の物語』(PHP文庫)ほか。