自分と相手の間に相違があったとき、人はついプッツンしがちだ。怒りとは、つまり「自分の考え以外を認めない」ということだ。自我を捨て、すべてを許して受け入れると、人は怒らない。

 仏教の言葉に「一切皆苦(いっさいかいく)」や「諸法無我(しょほうむが)」がある。前者は「そもそも人生って思い通りにいかないもんだ」という考えである。後者は「世の中、自分の所有物なんてなく、すべてはつながりのなかで生まれ、変化していくよ」という意味だ。

 まとめると「“私の考え”自体がそもそも存在しないし、トラブルが起こるのなんて当たり前だよ」ということになる。すると、もとより「怒るきっかけ」がないのだ。タモリにはそもそもプライドがないのである。なんて軽々として“自由”な考えだろうか。

 また、“私”を消してすべてを受け入れることで、人との距離も縮まる。笑福亭鶴瓶は、先述した『笑っていいとも!』のスピーチの場で「(明石家)さんまも(ビート)たけしも緊張するが、タモリとは普通に喋れる」と感嘆する。おぎやはぎの矢作兼は、ラジオ番組で「タモさんは大御所なのに、ずーっと自然でいられるの」と驚く。相手をすべて受け入れるからこそ、誰もが肩の力を抜いて喋れるのだろう。

過去・未来でなく「今」を楽しむ姿勢

 タモリは早稲田大学時代「モダンジャズ研究会」に属していた。また、芸能界に入るきっかけもピアニストの山下洋輔をはじめ、ジャズマンが関わっている。山下は偶然出会ったタモリが、初対面にもかかわらず場を盛り上げまくったことを気に入り、後日、漫画家の赤塚不二夫や作家の筒井康隆など自分の友人に、タモリを紹介したのだ。タモリを表すキーワードには間違いなく「ジャズ」があり、ジャズといえば「セッション」。つまり、即興だ。

 タモリはご存じの通り、生放送のMCをいくつか務めている。また、毎年恒例で出演しているトーク番組『徹子の部屋』(テレビ朝日系)では、「芸人泣かせ」として知られる黒柳徹子の無茶ぶりにも完璧に応(こた)えて徹子を毎回、爆笑させる。

 この当意即妙なトーク力の裏には間違いなく、ジャズで鍛えたアドリブ力があるに違いない。アドリブとは「思いついたことを実行すること」だ。前もって考えた台本はない。

 タモリは過去でも未来でもなく「今」を楽しむ天才である。例えば、タモリの名言に「反省するな」「目標なんていらない」がある。反省や目標とは「過去」や「未来」を考えたうえでの言葉である。そうではなく「今を生きる」のだ。

 これは、曹洞宗の開祖・道元の言葉でいう「而今(じこん)」 だ。私たちは常に「今」の連続にいる。未来がくるかどうかなんて、わからない。過去を悔んだり、未来に不安を感じるのなんて、ある意味で時間の無駄なのだ。それより、とにかく今と向き合うことが大事だと説くわけである。

 こう書くと「うだうだ言わずに、目の前のことを全力でやれ!」とスパルタっぽく見えるかもしれない。しかし、それでは長続きしない。タモリは「やる気になって仕事をしたことがない」とも語っている。今と向き合うことを長く続ける秘訣は「決して張り切らずに楽しむこと」なのだ。