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劇団四季、公演中止が続く中でファンが抱いた“憂うつ”と希望「きっと夜は明けるわ」

SNSでの感想
2021年2月6日、劇団四季の『ライオンキング』観劇時に 提供/若林理央
目次
  • ファンと演者、それぞれの痛み
  • 20年ぶりに、劇団四季を見ない年に
  • 願いは、かなわなかったけれど

 2020年4月、初の緊急事態宣言が発令されたとき、それぞれが最初に思ったことは何だろうか。

 フリーライターである私の頭をよぎったのは「対面取材、どうなるんだろう」という、仕事の不安だった。会社員ではないので、仕事がなければ収入もゼロになる。結果的にほぼすべてがオンライン取材に切り替わり、取材以外に他の案件もあったため、即座に収入が減ることはなかった。

 次に考えたのは、大好きな劇団四季のことである。「劇場が閉まるのではないか」。予想は的中した。

ファンと演者、それぞれの痛み

 15歳のときから、どんなに忙しくても、年に一度は必ず劇団四季を見に行っていた。心身がへこたれそうなとき、劇団四季に何度も救われた。

 '09年、大阪の企業で役員秘書をしていた私は、仕事帰りでクタクタになりながらも、同期と大阪四季劇場へ『ジーザス・クライスト=スーパースター エルサレム・バージョン』を見に行った。イエス・キリスト最後の7日間をロックミュージカルにした斬新な作品で、近くの劇場で上演することがあれば見に行きたいと思っていた演目のひとつである。

 チケットを持っているものの、行くかどうかは直前まで悩んでいた。慣れない仕事が次の日もあるからだ。

 しかし結果として、生まれて初めて趣味で「疲れがとれる」という経験をした。帰りの電車では、その日の感想が止まらなかった。

「やっぱりすごいなあ、四季って」。そう言って同僚と別れた後、パンフレットを抱きしめたときの感触を今でも覚えている。

 劇団四季は、名実ともに日本最高峰の劇団だ。「他の仕事をしながら舞台に立ち、生計をたてる」。それが当たり前だと思われていた、昔の舞台役者。劇団四季の創業者・浅利慶太はそれを覆し、舞台人が舞台だけで食べていける世界を作った。チケットぴあを通し、全国でチケット購入が可能になったのも劇団四季が最初だ。

 そんな四季の公演がストップするなんて、'11年の東日本大震災以来ではないだろうか。しかも、今回はパンデミックが理由で、事態がいつ終息するのかわからない。

 '20年2月に公演の中止が発表されると、私を含めたファンは衝撃を受け、'20年6月に始まった活動継続のためのクラウドファンディングや、劇団四季ウェブショップでグッズを購入し、必死に応援した。クラウドファンディングの支援額は始まって4日で1億円、最終的に2億円を超えた。

 ただ、それですら、劇団四季を存続させるために充分な金額とは言えない。「劇団四季にもしものことがあれば」と、不安が心をおおう。

 劇団四季は海外から輸入した名作ミュージカルが特に人気で、再上演を重ねている。ライセンスの関係で劇団四季自体は映像化や二次使用の権利がないため、輸入したミュージカルの放送や配信はできない。だからこそ、「生の舞台」のすごさで観客を魅了し続けてきた。

 大学で知り合った友人が、今も大阪の小劇場の舞台に立ち、活躍している。劇団四季を退団した元ダンサーからレッスンを受けていた彼女は言っていた。

「四季の俳優さんたちは公演のない日も稽古をしているし、舞台で一体感を出すために、どうしても上下関係が厳しくなる。けがをしたり、マナーを守らなかったりしたら役を降ろされることもあるみたい。それだけの覚悟を持って舞台に立ってる」

 劇団四季は、観客に役者個人の魅力だけではなく、舞台の完成度を見せる。

 長期間にわたる公演では、ひとつの役を複数が交代で演じる。誰がその日に舞台に立つのかは、直前までわからない。それでも観客は四季の舞台に期待をこめ、前売りのチケットを買う。

 まだ私が大学生の頃だったと思う。ある人気の演目を観に行った日、キャストボードを見て驚いた。若手の役者がよく演じる大役に、中高で4年間同じクラスだった同級生の名前があったからだ。

 すでに高校時代の知り合いと連絡をとっていなかった私は、Facebookで当時、仲のよかった同級生を探した。「久しぶり。〇〇さんが劇団四季で大役を演じてた!」。興奮してそう送ると、友人はすぐに返事をくれて、彼女が劇団四季に入った経緯を教えてくれた。

 その同級生は、クラスでいちばんの秀才だった。高校卒業後は有名大学に進学したと聞いていたが、ミュージカル女優になる夢を諦められず、劇団四季を受けたそうだ。

 四季にはダンサー、シンガー、アクターと3つの部門がある。どの部門も実績がなければ、一次選考の書類で落とされる。実力が伴わなければ、その後の審査過程で落ちる。非常に難易度が高い。幼少期からバレエを習い実績を積んでいた彼女は、ダンサー枠で合格したという。

 劇場が閉まってつらいのは、ファン以上に、実際に舞台に立つ役者たちだろう。同級生だった彼女は、どんな気持ちでいるだろうか。

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