「○丁目」駅の奇数・偶数の真相に迫る

 地下鉄の駅名に「○丁目」と付く理由はわかった。ここからはいよいよ、東京には奇数、大阪には偶数の駅名が多い真相に迫っていく。

「これまで話したように資料がないため、私の取材や調査、読んだ文献から得た知識に基づいた推測になってしまうのですが、地下鉄の駅名が奇数や偶数に偏った原因には、それぞれの”地域性”が影響しているのではないかと考えています

 地域性が駅名に由来するって、いったいどういうこと?

「まず東京ですが、元来、日本の縁起ごとやお祝いごとには『七五三』を始めとして奇数が入ったものが多く、なかでも『1』が好きだと記述された文献がいくつもあります。そんな奇数好きの日本で、特に関東の人は、奇数を好むと言われています。このことから、例えば、特にランドマークがなく、駅が町名の境に存在して、一丁目と二丁目のどちらを付けても大丈夫な場合などに、“それなら縁起のいい奇数にしよう”と、奇数の駅名を流用した可能性は考えられます」

 最終的に駅名を決めるのは鉄道会社の社員だが、当時は現在よりも地元出身の社員が多かったはず。そう考えると、上記の理由で奇数を選択したという推測もなかなかリアリティがある。

「一方、大阪は商人の街なので、お客さんと五分五分だとか、いまで言うwin-winの関係を願って、“同じ数で半分に割れる偶数”が好まれる文化なんです。そんな地域性から、一丁目か二丁目を選ぶ際に偶数を選んだのではないでしょうか」

駅名と所在地が違う!?

 渡部さんの説は「(奇数・偶数の偏りが)たまたまではない理由」として十分に考えられる。銀座一丁目や六本木一丁目など、基本的にはストレートに所在地を駅名にしたものが多いなか、一風変わった由来の駅名もあるんだとか。

「例えば、青山一丁目駅は現在の所在地が『南青山一丁目』なのに『南』が駅名に付いておらず、所在地と駅名が一致していません。それに『青山一丁目』という地名は、過去も現在も存在していません。それにもかかわらず現在の駅名が使われているのは​、銀座線の開業時に都電の『青山一丁目』という名称の電停が交差点にあり、そこから取られたものを使い続けているからだと推測できます。

 余談ですが、現在の外苑前駅はもともと青山四丁目駅でしたし、表参道駅は青山六丁目駅でした。広く認知されるランドマークができたから駅名が変更されたということも考えられますが、当時、地下鉄に不慣れな乗客が『あおやま』と聞いて反射的に乗り降りを間違えるケースが多かったから、という説もあります」

 大阪にもひとひねりある駅名があるという。

大阪メトロの蒲生(がもう)四丁目駅は、所在地としては今福西三丁目なんです。駅名のとおり、蒲生四丁目の交差点の直下に駅があるのですが、この交差点で交わる道路が4つの町名の境界となっていて、それぞれ北西が中央一丁目、南西が蒲生四丁目、北東が今福西三丁目、南東が今福西一丁目となっています。地元では『がもよん』と慣れ親しまれている地名ですし、大阪市電・天満今福線にも蒲生町四丁目の電停(1950年開業)があったことも、現在の駅名の由来だと考えられます

 地下鉄ではないが、東京・港区にあるJR品川駅や、品川区にあるJR目黒駅も、ルーツをたどれば、現在の所在地とズレている理由が見えてくるそうだ。

「これらも資料がないので私の推測になってしまいますが、品川駅は開業当時(1905年)、周辺が『品川湊』と呼ばれていたことに由来すると考えられます。目黒駅は開業当時(1885年)、所在地が『上大崎村』だったので『上大崎駅』となってもおかしくなかったのですが、近くに江戸時代から広く親しまれていた目黒不動尊があったため、そこから取ったのかなと思います。どちらも大きな駅なので気軽に駅名は変えられないでしょうし、それが現在まで続いているはずです」

 東京と大阪の地下鉄が奇数・偶数に偏っている件のほかにも、さまざまなルーツがある駅名。あなたの地元の駅も、調べてみると意外な事実が発見できるかも?

(取材・文/松嶋 三郎)


《識者プロフィール》
渡部史絵(わたなべ・しえ) ◎鉄道ジャーナリストとして、雑誌『鉄道ファン』の連載をはじめ、書籍やテレビなどで鉄道の魅力を発信している。5月21日に新著『超! 探求読本 誰も書かなかった東武鉄道』(河出書房新社)を上梓したほか、『地下鉄の駅はものすごい』(平凡社)、『東京メトロ 知られざる超絶!世界』(河出書房新社)、『関東私鉄デラックス列車ストーリー』(交通新聞社)、『譲渡された鉄道車両』(東京堂出版)など、著書多数。
【公式ブログ】http://ameblo.jp/shie-rail/ 【Twitter】@shierail

《筆者プロフィール》
松嶋三郎(まつしま・さぶろう) ◎フリーライター。兵庫県神戸市生まれ。「執筆するジャンルも内容も媒体も幅広く」をモットーに、堅いネタから柔らかいネタまで取材し、紙・web問わず多数のメディアで執筆中。
【Twitter】@matsushima36

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