「この世ならざる者たちは、あなたのすぐそばにいる」
郷内心瞳(ごうない しんどう)さんの職業は「拝み屋」。聞き慣れない響きで、なにやらおどろおどろしく感じるが、地方によっては「拝み屋さん」はとても身近な存在だという。
拝むのは、先祖供養をはじめ、家内安全や交通安全、時には安産や受験の合格祈願などが多いのだが……、時として憑き物落としや悪霊祓いも行っている。
ということは、この世ならざる者たちと渡り合う、かなり物騒な職業だということになるわけだが……。
「自分たちが見ている世界だけが、すべてではないということです。この世の中は、怪異であふれているのです。
でも、怪異といっても、幽霊とか悪霊とかの怖い話ばかりではありません。怪異というのはその字のとおり、『怪しい出来事』。例えば、写真にそこにいるはずのない人が写っているとかはよくあることです。おいしい蕎麦屋があって、もう一度その店を訪ねたら、もう何年も前から廃屋だったとか、捨てたはずの人形が勝手に戻ってきたといった……などの経験談を、私はよく聞きます。そんなことはありえないということが、説明のできないようなことが本当にある。
そうしたことに遭遇した人の話を聞き、不安を打ち払うのが、拝み屋の役割です。確かに異形のものと対峙するわけですが恐怖心はないですね。遭遇した方も、怖がることはないんですよ」(郷内さん、以下同)
ええっ! 存在していないものが写っている心霊写真は、やっぱり怖い。霊が何かを訴えているのではと、捉えてしまうのが普通だろう。
「心霊写真のほとんどは、そんなに深い意味はないんです。通行人のように、たまたま写り込んでしまっただけなんですね。この世と、別な世界がひょんなことでクロスしてしまったと考えればいいのです。心霊写真を撮ったから、何か祟られるようなよくないことが必ず起きるかというと、そんなことはあまりありません」
ということは、この世のものではないものと、袖がすれ合ってしまったって程度のこと?
「そのとおりで、怪異はあっちこっちで起きている。自分にはそんなことは一度もないといっても、気づかずにスルーしているだけかもしれません。また、今まではなかったけれど、今日、出会ってしまうかもしれません。私の本で紹介している摩訶不思議な出来事は、すべて実話です。まだまだ紹介していない話もあります。それだけたくさんあるってことですよ」
郷内さんのもとには、年間で500人以上の相談者が訪れる。拝み屋さんになってから20年近くたつそうだから、約1万人が怪異な経験をしていることになる。