手出しは無用、触らぬ魔性に祟りなし
この世ならざる者が、そこら中にいるとして、私たちがするべきことは、「やり過ごすこと」と郷内さんはいう。
何もしなければ何もない。しかし、あっちの世界では「祟る」のが当たり前。祟られたくなかったら、余計な手出しはせず、関わらないこと。
「例えば災害などで亡くなられた方がいて、みなで花を手向けるのはいいと思います。しかし、交通事故で亡くなられた方のために遺族が、道路の片隅にご供物などをそっと置いてあったりする場所で、赤の他人が手を合わせる行為は、やめたほうがいい。合掌しておけば自分が徳を積んだような気持ちになるのでしょうが、それは要らぬ不幸を招きかねません」
それはわざわざ、こっちから相手の世界に足を踏み入れ、関わりを持つようなもの。退屈しのぎや興味本位で心霊スポット探検へ行き、災いを引き寄せてしまう人が結構いるそうだ。自分には霊感もないし、怪異な経験などしたことがない。本当にそんなことがあるのかなあ─という人に限って、怖さを知らないから余計なことに首を突っ込んでしまう。要らざることをしてしまい、霊を呼び寄せてしまう。
では旅館やホテル、病院といった、怪異現象がよく起こるとされている場所についてはどうなのだろう。
「怨念とか悪霊とかよりも、多くの人の思いが怪異を生み出しているのではないでしょうか。旅行でも、みんなが楽しんでいるとは限りません。悲しいことがあっての旅とか、仕事で大変な思いをしている旅とか、そういう思いが詰まった部屋だと、負のエネルギーが漂ってしまうことがあるものです。病院も、患者がたくさん亡くなっているというわけではなく、病気のつらさが負のエネルギーとなり、さらに入院患者も感覚が鋭くなっているので、怪異を感じやすくなっているのでしょう。死んだ人の霊というより、生きている人の念が残留しているのかもしれません」
どんなときにも怪異なことに対して不遜にならない。理屈では解決しないけど、こういうこともあるんだと受け止める。
「これって拝み屋の心境なのですが、誰もがそれができれば、不思議なことがあったとしても、災いは起こりませんね」
心の準備と覚悟をして読んでほしい
郷内さんの本は、多くの人から寄せられた実話ばかり。ただし、読むにあたっては心の準備が必要だ。
「ここでお断りしておきますが、読書中にあなたに何か障りが出てくるかもしれません。私は、できるだけ怪しきものには手を出さず、やり過ごせとお話ししてきました。できれば怪談話など聞かないほうがいい。でも、みんな怪談話が好きですよね。
だったら、この話をきっかけに、霊があなたを訪ねていくかもしれませんが、それは覚悟をしてください」
実際に、郷内さんの本を声に出して読んでいて、気分がざわざわとしたり、いつもとは違う気配を感じたという人が出ている。もし何か得体のしれないものに出くわしても、平常心でやり過ごすこと。
今回は、郷内さんの新刊からえりすぐった怪談話を紹介した。
世にも不思議なこの体験実話を、何ごともなく読み終えられますように! 絶対に声に出して読まないで……。
1979年宮城県生まれ。郷里で拝み屋を開業。先祖供養、憑き物落としや魔祓い、各種加持祈祷、悩み相談などを手がけている。2013年『調伏』『お不動さん』の2作で第5回『幽』怪談実話コンテスト大賞を受賞。特異な経験を活かし、実話を基にした怪談作家としても活躍。著書の『拝み屋怪談』シリーズはテレビドラマ化され話題になる。今夏、『拝み屋念珠怪談 緋色の女』(角川ホラー文庫刊)、『拝み屋奇譚 災い百物語』(アプレミディ刊)、『拝み屋備忘録 怪談火だるま乙女』(竹書房刊)の3冊が発売された。
〈取材・文/水口陽子(つきぐみ)〉
(週刊女性2021年9月7日号掲載)