大抵の悩みは「あなたに原因がある」

 ところで、加藤先生本人が誰かに悩みを相談することはないのだろうか?

「今ある悩みというのは何千年前にもあったもので、新しい問題なんてないんです。例えば、親子の相続の悩みがよく寄せられるけど、親子の葛藤なんてギリシャ神話に最初からあるでしょ。そういう本を読めば、もう全部出てるんです。

 だから僕は『なんでみんな本を読まないんだろう?』って思うんだけど。本から学んで、自分の心に向き合えばいいのに。いちばん難しいのは自分を知ることで、いちばん簡単なのは人を批判すること。で、そのいちばん簡単なことをやっている人が悩んでいるわけです」

 近年話題となった相談がある。息子の暴力と引きこもりの問題で電話をかけてきた60代の元女性教員からの相談だ。「相談して損した。こんなバカバカしい話で、この失った時間をどうしてくれる」と怒りをあらわにし、「もういいです!」と言いながら電話を切らない。

依存的敵意といって、依存している相手に敵意を持っている。その相談者は、『子どもの担任が悪い』といった自分の望む回答を求めて電話をかけてきました。ところが、相談では『いや、あなたが悪いんだよ』と自分のいちばん望まない答えが返ってくる。だから、面白くないわけですね」

 多くの相談は、「悩みの原因はあなたにある」という回答に行き着くらしい。わかりやすいのは以下のケースだ。

「会社で上司に歯向かえないから、家に帰ってその不満を妻にぶつけて晴らす夫がいたとします。これは憎しみの本当の対象から目をそらし、当たり障りのない人に怒りの対象を置き換えているだけ。“攻撃性の置き換え”です」

 攻撃性は絶えず安全なところへ向けられ、“攻撃性の置き換え”が起こる。そうすると、怒りは別の形になって表れる。例えば、夫への憎しみを子に置き換えた母の虐待になったり、親への怒りが屈折した不登校もそうだ。それが、人間が抱える悩みの構造である。

『幼児虐待をしてしまう』という相談は昔から多いです。でも、今日来たこの相談と先週来た相談は、一見同じものだけど本質はまったく違う。なぜ、この人は幼児虐待をしてしまうのか、原因は千差万別です。

 アメリカの精神科医のアーロン・ベックは『Depression』という本で、『“うつ病です”と言う患者に“この患者はうつ病なんだ”とそのまま治療をしたら、その医者は失格である』という趣旨のことを書いています。幼児虐待という現象だけを見るのではなく、相談者にどんな怒りが蓄積されているのかその原点を見抜かなければならない。それが、この番組が半世紀以上続いている理由です」

 つまり、『テレフォン人生相談』が行っているのは相談者の本当の気持ちを指摘し、成長を促す作業だ。

「幼児は常に『あれをやってほしい』と親に依存します。そして、人は持って生まれた退行欲求がある。“大人になった幼児”も成長しない限り、『会社で同僚がこうしてくれない』と不満を抱き続けてしまうわけです」

コロナ禍こそ必要「心のマスク」

 本のタイトルにも使われている「心のマスク」という言葉はどういう意味なのか?

自分の人生を活性化させるのに最も安易な方法は、人を巻き込むことです。例えば、『あなたのことを思えばこそ』と言いながらグチグチと子どもを責める親。そうすることで、その親は自分の人生を活性化させようとします。

 心を病んだ人はみんな、心を病んだ人と関係ができている。だから、マスクをしてそういった人たちのまき散らす不幸を吸い込まないようにしましょうということです

 新型コロナウイルスの感染拡大で、人との距離感が測りにくくなった今。だからこそ、心のマスクが不可欠な時代なのだと肝に銘じたい。