恐怖を乗り越える体験が貴重

 外が明るくなるにつれ、室内の空気が穏やかに変わり、同時に何かを共に乗り越えた達成感のようなものも感じた。

スマホは使えないので仲間たちと会話をし、身を寄せながら過ごし、距離が近くなり、団結力も強くなる。友人同士だけでなく、初めて会った人たちともすごく仲よくなるんです。イベントで恐怖のトラウマだけでなくみんなで空間を共有する体験をしてほしい。今日は僕にとっても……青春でしたね」

 と桐木さんは笑った。

「普段、事故物件に住んでいますから桐木さんには同業のようなシンパシーも感じました。この家では変なことが起きたり、怖い瞬間があったり、ロマンがあった。恐怖を乗り越えることは登山とも似ているような気がします」(松原さん)

 そして開かずの間の存在は非常に大きいという。

神社の御神体や見てはいけない世界、ブラックボックスを残しておくことが大切。もしあそこ(開かずの間)に入ってしまったら恐怖がなくなり、この経験はきっとすぐに忘れてしまう。あの家にいる存在を認めることは大切」(松原さん)

 そう、あの家には確実に何か『住んでいる』。

「小さい女の子がいるって話す人もいます」

 桐木さんからこの話を聞いたとき一気に鳥肌が立った。昔、付近で水の事故で亡くなった女の子がいた。この屋敷のかつての住人ではないかという噂もあるというのだ……。

参加者が撮影した心霊写真。写真左下に女性らしき顔が見える(「暗夜」提供)

 そして帰りの車中でカメラマンがポツリと話した。

「あの家に入った瞬間、急に頭が痛くなったんですよね」

 何らかのメッセージを伝えるため、あの家には誰かがとどまっているのかもしれない。

《PROFILE》
事故物件住みます芸人・松原タニシ
松竹芸能所属。東京や大阪などを中心に各地の事故物件に住み続けて、怪談イベントなどにも出演している。著書に『事故物件怪談 恐い間取り』『死る旅』(ともに二見書房)など

最恐イベント開催団体「暗夜」主宰桐木謙士郎
埼玉県某所で民宿型幽霊屋敷を展開、今後は全国的に怪奇物件を利用した同様の企画を展開していく予定。幼少期から空手を習い、普段はキックボクサーという一面も