誰がどう思おうと、自分の気持ちに正直に
「気持ち的には、どこの現場に行ってもだいたい最年長なので、昔のように先輩とかに甘えることができなくなっちゃったのが、ちょっと寂しいなって思います(笑)。かといって、僕はしっかり後輩のことを受け止めるようなタイプでもないので、みんなとわちゃわちゃやっているほうが、よかったりするんですけど。周りの見る目は、“もっとしっかりしてくれよ”って気持ちでしょうね。
でも、昔、先輩方が声をかけてくれたように“何か困ったことがあったら言えよ?”なんて、僕からはなんだかおこがましくて言えなくて。共通の話題も見つからず、あっちも声かけづらいだろうし……。それで結果、仕事の話以外しゃべらないっていう時間になる(笑)」
とは言いつつも、ミュージカル『ソーホー・シンダーズ』の地方公演中、58歳の誕生日を祝ってもらうなど、後輩のキャストやスタッフともいい時間を過ごしている。
「(松岡)充が中心になって、みんなでお祝いをしてくれてすごくうれしかったです。今作もそうですが、舞台で若い俳優たちと共演して感じるのは、みんなすてきで素晴らしいということですよ。芝居も歌も踊りも、僕が同じような年ごろにはこんなことできなかったと、感心することばかりで、すべてにおいて刺激をもらっています」
ミュージカル『ソーホー・シンダーズ』は、童話『シンデレラ』を下敷きに創作された物語で、ロンドンの街ソーホーを舞台にした現代版シンデレラ・ストーリー。いじわるな義理の姉妹にいじめられながら日々つつましく暮らす青年・ロビー(林翔太)と、彼の恋人でロンドン市長選の候補者であるジェイムズ・プリンス(松岡充)の真実の愛と、2人を取り巻く人々の多様でバイタリティーあふれる生きざまを生き生きと描きだす。
松村さんは、主人公のロビーに恋する、貴族のベリンガム卿を演じている。
「(林)翔太が演じるロビーもとにかくすてきで、ピュアで明るくて子犬のようで……ベリンガム卿が惚(ほ)れてしまうのはわかるよなって(笑)。
このミュージカルは楽曲が素晴らしいんですよね。物語の後半で、ロビーが彼の友人でシングルマザーのヴェルクロ(豊原江理佳)の元を去ってしまったときに、江理佳が短く歌う『普通になりたい』のリプライズがとても切なく、稽古場でも本番でも何度も涙してしまいました。翔太のソロ曲『ガラスの靴はどこにもない』も、心をわしづかみにされます」
誰もが知る童話を下敷きに、性的マイノリティーや政治の問題も盛り込み、その社会性も高い評価を受けている今作。観客に何が伝わればいいと思うか尋ねると。
「“誰がどう思おうと、自分の気持ちに正直に生きたほうがいいんじゃない?”って、この作品は問いかけているのだと思うんですね。タイトルの『シンダーズ』には『灰』という意味もあって。真っ白でもなく真っ黒でもなく、いろいろなグレーゾーンの人たちが多様性を認められて、自分たちの生きたいように生きられる世の中がいいね、というエールを送っているようなところがあると思います。
全員がハッピーエンドではないけれど、登場人物みんなのすてきに生きた時間を見ていただいて、“ああ、いろんな生き方があるな”と楽しんでいただければいいですね」