「映像のお仕事自体が『いだてん〜東京オリムピック噺(ばなし)〜』を撮って以来、初めて。そして撮影所が京都の太秦だったんですけど、これも初めてだったんです。もう40になりますけど、この年になっても初めてのことって多いんだなって思いながら撮影していました。
なにより、作品の舞台がもしタイムマシンがあったら絶対行きたい、江戸時代の江戸三座があったころの中村座なんです。そのセットが太秦のスタジオに建っていて、その中で撮影できたというのは、役者冥利(みょうり)に尽きるなって思いました」
中村勘九郎が2019年の大河ドラマ以来、2年ぶりのドラマ出演。
『忠臣蔵狂詩曲(ラプソディー)No.5 中村仲蔵 出世階段(しゅっせのきざはし)』(BSプレミアム・BS4K/前編=12月4日、後編=12月11日放送)で、江戸時代の伝説の歌舞伎俳優・中村仲蔵を演じる。物語は江戸歌舞伎の厳しい階級制度の中、孤児だった仲蔵が裸一貫で這(は)い上がっていく姿を、忠臣蔵を軸に描いていく。
「中村仲蔵のことは父(十八代目中村勘三郎)が仲蔵さんの伝記『手前味噌』を愛読していたので、よく聞いていました。撮影は浮世絵にあるような当時の芝居小屋が見事にセットで再現されていたりして、もう毎日ワクワクしていました。
歌舞伎俳優にあんなスタジオ与えちゃダメですよ(笑)。小さいころからああいう世界に憧れて芝居ごっこして遊んでいたわけですから、心が躍っちゃって仕方ない。本当、すごいものを作っていただきましたね」
京都での撮影は想像以上にハードだったそう。
「ありがたいことに、今回ほとんどのシーンに出させていただいているんです。しかも夏で、撮影が終わったら食事にでもと思っても夜8時以降はお店がやっていなくて、食事はホテルの下にあるコンビニ。
それが1か月くらい続いたので、歌舞伎の世界を這い上がってきた仲蔵さんの気持ちがわかったといいますか、この仕事は本当に好きじゃないとできないなって改めて思いました」
朝ドラヒロインに思わずびっくり
四代目市川團十郎を市村正親が演じるほか、段田安則、藤原竜也、石橋蓮司、吉田鋼太郎など豪華共演者が集まる中、仲蔵の奥さん役の上白石萌音とはこんなエピソードが。
「もう萌音ちゃんには尊敬しかないです。『カムカムエヴリバディ』を撮り終えたくらいだったのかな。この撮影で三味線の弾き語りをやったんです。
僕も三味線をやったことあるからわかりますけど、普通は難しくてすぐ弾き語りなんてできない。めちゃくちゃ忙しい人にやらせちゃダメですよ(笑)。なのに完璧に演じられていたからすごい。朝ドラのヒロインは違うなって思いました(笑)」
弟の中村七之助も初代市川染五郎役で出演。
歌舞伎ではよく共演しているが、ドラマでがっつり共演するのは大人になってから初めてだそう。
「膝(ひざ)突き合わせてセリフのやりとりをしたり、しかもバディみたいな役も初めて。別に共演NGってわけじゃないですよ(笑)。
弟(七之助)ってクールに見えますけど、根は熱いものを持っている男。全然緊張もしないように見えるでしょ。蕎麦(そば)屋で2人でしゃべっているシーンのとき手がブルブル震えていたんですよ。お酌をするときとか“大丈夫か”と思うくらい。
でも、それだけ緊張感を持って臨んでくれたんだなと思いますし、共演は楽しかったので、わが弟ながら誇らしいですね」
【こぼれ話】盟友との久々の共演
「撮影初日に謎の侍役で出演してくれた竜也くんと久々に共演したんです。『新選組!』で出会って、年も近くて意気投合して。舞台も一緒にやらせていただいたり、彼がいると安心しますね。
久しぶりの京都だし、撮影終わりに飲みたいねとか話をしていたんですけど、店がどこもやってなかったんですよ。だから、部屋で缶ビールだけ飲んだのはいい思い出です」