デビュー当時は何もわかっていなかった
「今は生活ができるから、ようやくじっくり出演作を選んでいくことができる」
その言葉どおり、近年の出演作には鮮烈な印象を残すものが多い。
例えば、映画『64-ロクヨン-』(2016年)では序盤から登場。事件の捜査で失敗し引きこもりになってしまった元捜査員の母親を哀切に演じて、主人公・佐藤浩市とともに観客を昭和64年の世界に誘う。大杉漣さんの遺作となった『教誨師』(2018年)では、おしゃべりが大好きな死刑囚。いつ刑が執行されるか知れぬ日々のなか、表面的にはひたすら明るく主人公の牧師と接見する。
気がつけば、実に味のあるいい女優になった。
「そうでしょう? なったんじゃないの。もともとそうで、隠してたんだから(笑)。『四季・奈津子』とか、あんなことをやらされて(笑)」
デビュー当初の作品では小悪魔な魅力で男たちを手玉にとっていく烏丸せつこが、燦然(さんぜん)と輝いている。40年前を振り返ったとき、どんな思いが去来するのだろうか。
「愛おしい。でも、まだ何もわかっていなかったね。『マノン』は『四季・奈津子』のあと、プロデューサーが “烏丸、次これやれ”と。“自分、こんなキャラじゃないんだけど”とか思いながら、周りの期待にこたえた感じ。そういうキャラで世の中に出たんだからしょうがないじゃん。
『駅STATION』にしたって、あのときの “すず子(役名)”はかわいいでしょ? せつないでしょ? アホで(笑)」
「私は『駅STATION』で前のダンナと結婚したんだけど、あれは脚本が倉本(聰)さんだからわかりやすい芝居になるよね。『四季・奈津子』『マノン』の東陽一監督は発想がすごく自由。東さんは今でも “烏丸、また面白い女やれよー。俺、脚本書くから”って、コツコツ書いていますよ。
やっぱり普通のおばあさん、ありきたりの年寄りじゃないのをやりたい。ヌーヴェルヴァーグとか(ジャン=リュック・)ゴダールとか大好きだから、東さんはそれを今の年寄りに置き換えてやるのを考えてるみたい。おトシだから難しいかもしれないけど、楽しみに待っています」